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カルボニル

 

カルボニルとは

 

 カルボニルとは誰もが知っているように炭素−酸素二重結合を持った官能基のことである(図1)。

 

 

図1 カルボニル基

 

 カルボニル基は酸素がδ−、炭素がδ+に分極しているため反応性が高いだけでなく、α位の水素の酸性度が高いためあまり強くない塩基でも水素を引き抜くことができる。また、酸化する事によってカルボン酸、還元することによってアルコールに変換できる。このようにカルボニル基は反応性の高さから、有機合成には欠かせない官能基の一つである。

 

カルボニルの反応

 

 前述のようにカルボニル基の反応は大きく分けて3種類に分けることが出来る。

 

1、δ+に分極した炭素への塩基(アニオン)の求核攻撃による反応

図2

 

 これはカルボニル基の反応の中でも最も使われている反応である。カルボニル基は平面構造をとっているために立体障害を受けにくく、カルボニル炭素周辺がすいているため求核攻撃を受けやすい。

 

図3 カルボニル基の立体構造(2,4−ジメチル−3−ペンタノン)

 

 中心に位置している炭素(灰色)がカルボニル炭素であり、赤色が酸素である。カルボニル基に立体的に混んでいるイソプロピル基が2つついているが、図3を見れば分かるようにカルボニル基周辺の立体はすいていることが分かる。

 

 カルボニル根元への求核攻撃後に進行するルートは2種類に分けることができ、1つ目はカルボニル炭素の隣接位に脱離しやすい官能基が存在する場合に図4のように酸素-炭素二重結合が生成し脱離能の良い(脱離後に安定である)官能基が脱離する反応である。

図4

 

脱離能の良い官能基としてはハロゲン、アルコキシ基などがある。

 

二つ目に酸素アニオンの求核攻撃が進行する場合(図5)がある。

図5

 

2、δ−に分極した酸素のロ-ンペアの求核攻撃による反応

 

 このタイプの反応は分子内反応に多く見られる。

図5

 

3、α位の水素の塩基による引き抜きによる反応

 

 カルボニル基のα位の水素の酸性度は高い(pKa=19〜20)。これは中間体は共鳴安定化することが出来るためである。そのため塩基を用いると容易にプロトン引き抜きが進行し図6に示す中間体を経て反応が進行する。

図6

 

これらを用いた反応の例として交差アルドール反応を挙げる。

図7 交差アルドール反応

 

第一段階で化合物1のα位のプロトンが引き抜かれ化合物2となる。この化合物2の酸素−炭素結合がもう一度二重結合となりケトン3のカルボニル炭素に求核攻撃し化合物3となった後に酸素アニオンが水の水素を取りアルコールとなる。

 

カルボニルの合成

 

 

 カルボニル基を持つ化合物としてはアルデヒド、ケトン、カルボン酸などが上げられる。それぞれの合成反応を表1に挙げる(ODOOSより)。

 

アルデヒド

ケトン

カルボン酸とその誘導体

Dess−Martin酸化

Gatterman−Koch反応

Gattermanアルデヒド合成

PCCを用いる第1級アルコール酸化

Reimer−Tiemann反応

Rosenmund還元

Brown-Subba Rao還元 

Swern酸化 

Vilismeier−Haak反応

Wacker酸化 

アルケン酸化によるアルデヒドの合成

アルドール反応

エステル、アミド、ニトリルの金属水素化物による還元 

ヒドロホルミル化反応 

活性二酸化マンガンによる

       第一級アルコールの酸化

有機金属化合物のホルミル化

 

 

 

    

参考 カルボニルのポテンシャル電荷

(プラス マイナス)

1,3−ジチアンを利用するケトン合成 

Barton反応 

Blanc反応 

Carroll転位 

Claisen縮合 

Collman試薬によるケトン合成

Criegeグリコール開裂

Dieckmann反応

Eschenmoser開裂反応

FAMSOを利用する環状ケトン合成

Friedel−Craftアシル化反応

Fries転位

Harriesオゾン分解

Jones酸化

Lindlar還元 

Michael付加 

MT-スルホンを利用するケトン合成

Nazarov環化

Nef反応

Oppenauer酸化

Pauson-Khandシクロペンテン合成

Robinson環形成反応

Rupe転位

Ruzicka環状ケトン合成

Sarett酸化 

Storkエナミンによるケトン合成 

Tiffeneau−Demjanov転位 

Weiss反応

Wacker酸化 

アシロイン縮合 

アセト酢酸エステルを利用するケトン合成 

ピナコール転位 

交差アルドール反応

Claisen転位

Arndt-Eistert合成

Barbier-Wieland分解 

Baeyer-Villiger酸化 

Beckmann転位 

Faverskii転位

FAMSOエステル合成

Ireland-Claisen転位

Johnson-Claisen転位

Delepineアミン合成

Faverskii転位

Wolff転位

Koch反応

Kolbe反応

Willgerodt反応

カルボニル化による

         カルボン酸誘導体合成 

ハロホルム反応 

ヨードラクトン化および関連反応 

芳香族メチルの酸化

向山-Cory法(山口法)

マロン酸エステル合成

Richter転位

 

表1 カルボニル化合物の合成反応

 

カルボニル分析方法

 

 カルボニル基の分析方法として最も有名なものはIRの1700cm-1付近に現れる鋭い吸収である(図5)。

 

図5 カルボニル基のIRにおける吸収(SDBSweb:http://riodb.aist.go.jp/SDBS/2001/02/12 )

 

IRにおいて1700cm-1付近の鋭い吸収はカルボニル化合物特有のものであるため、IRで最も確認しやすい官能基の一つとなっている。他にこの位置に吸収を持つ化合物がないために微妙な吸収のシフトも分かりやすく隣接位の構造を決定することも出来る。

 

 カルボニル化合物は反応性が高い、合成方法がたくさんある、分析しやすいと3拍子そろったすばらしい官能基ではないだろうか?有機って面白いよね!!

(by ボンビコール)

 

参考、関連文献

 

有機人名反応小倉克之 朝倉書店有機人名反応

ソロモンの新有機化学 (上) 第4版 上,下 廣川書店

・有機化学 好野雄 好野則夫 丸善株式会社

スペクトル有機化学 高橋浩 三共出版株式会社

 

 

関連リンク

ODOOS

【用語ミニ解説】

 

酸性度

 

酸性度定数 Ka あるいは pKa の大小で評価する。

 

Bordwell pKa Table

 

各種化合物の酸性度(pka)がわかる。非常に重宝するサイト。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IR

 

infrared absorption spectrometry(赤外吸収スペクトル)。

で試料に赤外線をあて吸収された赤外吸収スペクトルを測定することによって定性を行う分析方法のひとつである。有機物質はすべて赤外域に固有の吸収スペクトルを持っているので主に有機物質の測定に用いられている。IRの基礎知識