発ガンの仕組み |
ガンがどうやって起こるか知っていますか?「細胞分裂が正常細胞と異なる」という程度に知っている人は多いと思います。ここではその前の段階「ガン細胞ができる過程」について紹介したいと思います。
まず、発ガン剤について紹介する。一般的に発ガン剤はそれ自身で反応性はなく、標的となるDNAに到達したときにはじめて反応性を持つ。
図1発ガンの概要図
この反応性のないものが発ガン性を示すようになる過程は発ガン剤の構造によって異なる。また、発ガン剤とDNAの反応にもいくつかの種類がある。ここで発ガン剤とDNAの反応の例をいくつかあげる。
まずは、インターカレーションについて紹介する。DNAは、2本のDNA鎖が水素結合をした2重螺旋構造をとっている.この2重螺旋構造の一部分(塩基対)を認識し、その塩基対間に発ガン剤がインターカレーション(挿入)し、DNAを切ってしまう(図2)。
図2 インターカレーション概要図
このように、発ガン剤がDNAの隙間に挿入されるためには、発ガン剤が平面構造をとっている必要がある。 では、実際にどのような分子がDNAを切断しているのだろうか?みなさんはBargman-正宗反応という反応を知っていますか?
図3 Bargman-正宗反応
この反応で反応を起こす部分はsp2炭素とsp炭素であるため、平面構造をとっているため、インターカレーションを起こすには最適の構造である。また、ラジカルを持っているため、DNAを切断することもできる。 例えば、次の分子(図4)を例にとる。
図4
この分子中のSuger PartがDNA鎖のTCCTという部分を認識し、選択的に切断する。 では、この分子はどのように反応するのだろうか?DNAのTCCTという部分に到達するまでは図4中の赤の部分の距離が広すぎるために反応性はない。しかし、TCCTに到達すると、次に反応が起こりDNAを切断する。
図5
このとき生成したラジカルがDNAを切断する。その後、DNAは化学修飾を受け、この際、元通りに修復されず、突然変異を起こしてしまうことがあり、この細胞が悪性化しガン細胞となる。
次に、水溶性が増すことによってガン化する場合の例を示す。
図6
肝臓中で、図6の分子の赤の部分がOH化し、水溶性が増大し、DNAが損傷を受ける。これによってDNAが化学修飾を受け、この際に元通りに戻らない(突然変異)とガン化する。ほかにも発ガンの機構はたくさんあるが、反応例については、以上の2つにとどめておく。
DNAが切断など損傷を受けるだけでは正常細胞はガンとはならない。これが悪性化したときにはじめて発ガンする。では、どのように悪性化するのであろうか。まず第一段階として、発ガン剤(発ガンイニシエーター)を摂取する段階(発ガンイニシエーション)がある。これによって、正常細胞が突然変異を起こす。これだけでは発ガンせず、これを促進する、発ガンプロモーターというものを摂取する(プロモーション)必要がある。タバコなどはイニシエーターとプロモーターの両方を含んでいるため、発ガン性が高い。プロモーターを摂取することによって突然変異した細胞が不死化細胞となる。これがコンバージョンという過程(不死化細胞がガン細胞に変化する過程)を経てガン細胞となる。普通、ガン細胞は免疫機能により、正常細胞と異なる細胞と認識され排除される。しかし、排除しきれなかったガン細胞が増殖、悪性化し(プログレッション)ガンとなる。これが化学発ガンの仕組みである。以上の過程を図7に示す。
図7 発ガンの仕組み
現在、ガンを抑制するために用いられている制ガン剤はDNAや細胞分裂装置を標的とするすべての細胞に毒性を発揮するが、見かけ上分裂の速い細胞に選択性を示すものである(選択毒性)。このため、正常細胞でも毛根細胞、小腸粘膜上皮細胞、血液幹細胞などにも毒性を示すため、脱毛、嘔吐、貧血などの症状を引き起こしてしまう。
制ガン剤の新しい分子標的としては、免疫増強、分化誘導などがある。免疫増強とはガン細胞は正常細胞に由来しているが、正常細胞とは異なる分子として認識されている(免疫作用)。免疫作用を増強させることができれば、ガン細胞だけ殺すことができるので、上記のような症状はあらわれないはずである。また、分化誘導を図8に示す。
図7 分化誘導
やっぱり有機って面白いよね!!! (2000/10/1 ボンビコール)
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