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バイオマスの化学 〜生分解性プラスチック編〜

 

  近年、バイオマスという言葉が話題になっている。農林水産省によるとバイオマスとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で、化石資源を除いたものをいう。地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを使って、無機物である水と二酸化炭素から、生物が光合成によって生成した有機物であり、私たちのライフサイクルの中で、生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能な資源である。」 つまり、やがては枯渇するエネルギーである石油や石炭に取って代わるエネルギーとして期待されている資源なのである。政府は平成14年にバイオマス・ニッポン総合戦略と称してバイオマスの総合的利用を推進している。

 

バイオマスって具体的にはなんなの?

  

 それでは具体的にバイオマスとはいったい何を指すのだろうか?それは木や動植物などに由来するもので、家畜排せつ物、農作物残さ、食品廃棄物、下水汚泥、木質系廃材など今まで使われずに捨てられていたものも含まれる。そして、むしろ、そのような廃棄物の有効利用がリサイクルの観点からも大きく注目されている。今回のトピックではその一例として、とうもろこしやさとうきびなどの農作物や食品残渣である生ゴミから生分解性プラスチックが作られている事例を化学的側面に重点を置きつつ紹介する。

 

生分解性プラスチック

  

 プラスチックとは合成高分子の一種で化学的に安定であるという長所を持つ反面、その長所は短所にもなり、ゴミとなった時に自然分解しないという問題点も抱える。このため使用後には分解されて無害な物質になるような(いわゆる土に帰る)プラスチックの開発が望まれている。生分解性プラスチックとは微生物により分解されやすいプラスチックであり、環境保護の点から有用であると考えられている。その中でも注目されているのがポリ乳酸を原料としたものである。ポリ乳酸は乳酸を重合させることにより得られるが、その特性が一般的なプラスチックであるポリスチレンやポリエチレンテレフタラートと類似しているにも関わらず、微生物によって分解されやすいという特徴を持つ。
 

ポリ乳酸の製造法

  

 ここで、ポリ乳酸の製造法を紹介する。その製造工程は大きく糖化発酵精製重合の4工程に分けられる。まず、原料(サトウキビ、トウモロコシ、生ゴミ)からでん粉を取り出す。そして、これを糖化することによりグルコースを得た後、発酵により乳酸を得る。しかし、ここまでの段階では不純物が含まれるのでこれを精製する必要がある。乳酸は水溶性なので固液分離により、液体を得る。この液体を濃縮することで液中の乳酸濃度を高めた後、エステル化し、蒸留を行う。そして、これを再び加水分解して、純度の高い乳酸を得て、重合工程に入る。重合工程は以下の通り。まず、乳酸を脱水縮合させ、低分子量のプレポリマーを作る。これを解重合させ環状二量体であるラクチドを作り、蒸留により精製する。精製したラクチドを2-エチルヘキサンスズなどの触媒を用いて開環重合し、ポリ乳酸とする。

 

ポリ乳酸の製造スキーム

でんぷん(グルコースの水酸基が数十万〜数百万も縮合している。下図はその一部分であることに注意。)
 

とうもろこしやさとうきびなどの農作物及びそれらから派生するもの(生ゴミ)にはでんぷんが豊富にふくまれている。
 

 

 

糖化(加水分解):でんぷんは酵素や熱などで酸性条件下において加水分解され、その単量体であるグルコースにまで分解される。


  

 

グルコース

  

  

発酵(解糖系):グルコースは嫌気的条件下において、他段階反応を経て乳酸を生成する。(参考:解糖系

  

 

  

乳酸(精製前)

 

エステル化:精製前の乳酸は不純物を含むのでこれを精製する必要がある。ブタノールと反応させ、ブチルエステル化した後、蒸留し精製した乳酸エステルを加水分解することにより、純度の高い乳酸を得ることができる。
 

乳酸エステル

 

 

蒸留
加水分解

 

 

乳酸(精製後)

   

 

脱水縮合:まず、低分子量のポリマー(プレポリマー)を作成する。
  

 

 n:low

  

 

解重合:これを解重合し、乳酸2分子が縮合したラクチドを作成する。

  

 

 

ラクチド  
 

 

 

開環重合:これを開環重合することにより、より分子量
の高いポリ乳酸ができあがる。

 

 

n:high=ポリ乳酸
 

 *本スキームでは乳酸のD体L体については明記していないが、一般的にL体の乳酸を多く含むポリ乳酸の方が高分子量のポリマーを形成することができるといわれている。

 

ポリ乳酸の特性

  

耐熱性
ポリ乳酸は従来のプラスチック(ポリエチレン他)に比べて耐熱性が低い(60oCで熱変形する)ことがネックとなっていたが、ここ数年の間に高耐熱性(80oC〜)のポリ乳酸が開発されているのでポリ乳酸の需要は今後さらに高まるであろう。(→ユニチカフクビ他)

分解性
高分子の分解性の評価基準はいくつかあるが、その代表的なものとして人工堆肥(コンポスト)を用いた物性値測定及び形態観察、または食品擬似溶媒における加水分解試験がある。これらの試験でポリ乳酸は高い分解性を示した。つまり、前者では日を追うにつれてポリ乳酸の強度が減少し、ボロボロになっていることがわかり、後者ではポリ乳酸の重量平均分子量や数平均分子量の減少が確認されている。つまり、ポリ乳酸が分解されて乳酸やオリゴ乳酸に戻っていることがわかる。(参考:日本化学繊維協会HP KASEN TOPICS No.17、内閣府食品安全委員会HP ポリ乳酸を主成分とする合成樹脂製の器具又は容器包装 評価書)
 
安全性
前述のようにポリ乳酸を食品擬似溶媒につけると乳酸やオリゴ乳酸(乳酸の低重合体)が溶出するが、これらの毒性としてのリスクは非常に低いことが確認されている。(乳酸は食品添加物としてすでに用いられていて安全性も確認済みである。)また、よく製造に使用される添加剤である2-エチルヘキサンスズも検出されなかった。
 

まとめ

  

  プラスチックはフィルム、シート、食品容器、OA機器などの様々な製品に用いられているが、従来のプラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、etc)は分解性に乏しく、燃焼の際にダイオキシンなどの有毒ガスを発生することが問題となっている。そのため、ポリ乳酸のような微生物により自然分解されやすいプラスチックが従来のプラスチックの代わりに積極的に利用され始めてきている。ポリ乳酸は従来のプラスチックに比べ耐熱性に乏しいなどの欠点があったが、近年、この欠点を解消する研究成果が出てきているので、今後、ポリ乳酸の利用はますます増えるであろう。

  

(2006.2. 5  まろ)

 

用語説明


プラスチック
 プラスチックは原油から作られる石油製品の一つであるナフサから作られる。ナフサを加熱、分解することで石油化学基礎製品(エチレン、プロピレンetc)が作られ、これらを化学反応(重合)させることによって、様々な種類のプラスチックが作られる。

乳酸
  乳酸は生体内では解糖系において、グルコースから他段階反応を経て生合成される。結果的にグルコース1分子から乳酸2分子が作られる。これらの乳酸は糖新生により、再びグルコースになる。このように乳酸は生体内で作られる物質であることはすでに知られている。また、食品添加物としても乳酸は使用されている。乳酸は防腐作用を持つので、ドロップ、ゼリー、アイスクリームなどの食品に幅広く使用されている。ちなみに乳酸が安全であるという根拠は急性毒性試験LD50(ラット・経口)が3730mg/kg(一般的に1500mg/kg以上で安全とされている)であること。また、亜急性毒性、遺伝毒性、発がん性試験等でも問題がないことなどである。(内閣府食品安全委員会HPより)

でんぷん、糖化
  でんぷんは数十万〜数百万のグルコースの水酸基ができた縮合してできた鎖状の高分子である。でんぷんの糖化とは、でんぷんを加水分解して構成単位であるグルコースにすることをいう。この加水分解は通常、アミラーゼなどの酵素を用いて行われる。

 

参考、関連文献

 

九州工業大学 白井研究室 
 白井教授は生ゴミからポリ乳酸を作るアイデアを最初に考えた。現在、北九州で試験プラントが稼動していて、このアイデアが技術的には実現可能なことが証明されている。また、同教授はNPO法人北九州エコ・サポーターズの代表として、環境保全技術の発展と啓発に取り組んでいる。

内閣府食品安全委員会
その名の通り、食品の安全性について評価する政府機関である。ポリ乳酸の場合、食品容器としての用途が見込まれるため、食品衛生法(器具・容器包装)に基づいたポリ乳酸に対する個別規格を定める必要が生じている。 
 
本図解入門 よくわかる 最新プラスチックの仕組みとはたらき (秀和システム)
  プラスチック全般について、わかりやすく書かれている。従来使用されているプラスチックについての理解を深めれば、本トピックで紹介したポリ乳酸のプラスチックとしての位置づけがより鮮明になるであろう。

 

 

 

 

 

 

関連リンク

 

ケムステニュース

サンギ、バイオマス由来のエタノールを原料にガソリン代替燃料(2005.3.7)

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【用語ミニ解説】

  

 

 

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