概要
Cr(η6-arene)(CO)3錯体は、ベンゼン誘導体及びクロムヘキサカルボニルから容易に調製される。
クロムカルボニルが配位した芳香環は電子不足になるため、通常進行しにくい芳香族求核置換反応(SNAr反応)を起こすことが可能となる。同様の理由から芳香環上・置換基上のプロトンの酸性度も向上するため、核リチオ化なども容易に起こせる。
また、クロムトリカルボニル部位は立体障害基としても働くため、立体選択的に置換基・官能基を導入するための手法としても利用できる。クロムが配位することで芳香環の置換基はエナンチオトピックとなり、面不斉を利用した不斉合成も行える。
クロム上のd電子関与により、ベンジル位のカチオンが安定化される。このため、Nicholas反応様式の立体特異的SN1置換反応も可能となる。
このように、種々の興味深い性質を示す錯体であるが、量論量の有毒クロムを用いることが必要なうえ、錯体が酸素に不安定なため、実用面ではさらなる改善が求められる。
基本文献
反応機構
反応例
処理の手順によって生成物が異なる。
種々の化合物合成にも用いられている。
実験手順
実験のコツ・テクニック
参考文献
関連反応
- ウルフ・デッツ反応 Wulff-Dotz Reaction
- 芳香族求核置換反応 Nucleophilic Aromatic Substitution
- フィッシャーカルベン錯体 Fischer Carbene Complex
- ニコラス反応 Nicholas Reaction
- オルトメタル化 Directed Ortho Metalation
- ザンドマイヤー反応 Sandmeyer Reaction
- ウルマンカップリング Ullmann Coupling
- フリーデル・クラフツアルキル化 Friedel-Crafts Alkylation
- フリーデル・クラフツ アシル化 Friedel-Crafts Acylation
関連書籍