[スポンサーリンク]

O

有機リチウム試薬 Organolithium Reagents

[スポンサーリンク]

 

概要

有機金属試薬の大まかな反応性は炭素-金属結合の分極度合いで決まり、炭素-リチウム結合は最も大きな分極(イオン結合性)を示す。このため有機リチウム化合物は、有機金属試薬の中では最も強力な性質を示し、Grignard試薬、有機亜鉛試薬などよりも反応性が高い。空気・水には不安定であり、反応時には激しく発熱する。このため、不活性ガス雰囲気下・脱水溶媒・低温条件で反応を行う必要がある。金属交換用試薬、求核剤もしくは強塩基として用いることが一般的。

基本文献

 

反応機構

リチウム-ハロゲン交換反応は、電子移動(SET)機構、もしくはハロゲンへの求核付加-脱離機構で進行する。(参考:J. Organomet. Chem. 1988, 352, 1.)
t-BuLiを用いるハロゲン-リチウム交換反応の場合には、ハロゲンに対して二当量の試薬が必要。(リチオ化後に生じるt-ブチルハライドとt-BuLiが反応して消費されるため)
organolithium_6.gif

 

反応例

※溶液中では会合状態(オリゴマー)として存在している。配位性添加剤を加え、会合を解離させてやると反応性を向上させることができる。N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)ヘキサメチルホスホラミド(HMPA)ジメチルプロピレンウレア(DMPU)はその目的で頻用される試薬の例である。
organolithium_5.gif
※有機リチウムは求核剤および塩基としての両性質を兼ね備え、反応性の高さゆえの副反応を起こしやすい。 塩基目的の使用においては、かさ高い二級アミンをリチオ化したリチウムアミド試薬を用いることが多い。代表的な試薬としてはLDA(Lithium diisopropylamide)、LiTMP(Lithium 2,2,6,6-tetramethylpiperidide)、LHMDS(Lithium hexamethyldisilazide)などが挙げられる。
organolithium_4.gif
※他方、求核剤用途では、銅アート錯体(R2CuLi)の形にして使用すれば、塩基性を抑えつつ求核付加・置換が行える。リチウム試薬はハード性が高く、α,β不飽和カルボニル化合物を基質とした場合、1,2-付加が1,4-付加に優先する。銅アート錯体を用いれば1,4-選択的に進行させることが可能。
organocuprate_michael_1.gif
nBuLi-KOtBuのコンビネーションはSchlosser-Lochmann塩基とよばれ、超強塩基として働く。たとえば炭化水素のアリル位脱プロトン化などに用いることができる。[1] 光学活性アリルボランの合成などにおいて用いられることが多い。
Roushらの報告[2]を下記に示す。
organolithium_9.gif
(-)-Sparteineを配位性添加剤として加えると、エナンチオ選択的脱プロトン化が行える。以下に例を示す。[3] organolithium_3.gif

実験手順

 

実験のコツ・テクニック

※よく用いられ市販もされている代表的な試薬としては、MeLi、PhLi、n-BuLi、sec-BuLi、t-BuLiなどが挙げられる。
organolithium_2.gif

※市販のリチウム試薬はSure-sealedな試薬瓶に保存されてはいるが、シリンジ針を2~3回刺すと穴が開いて密閉性が格段に低下してしまう。テフロンシールやパラフィルムを何重かに巻いて保存する。より厳密に、かつ長期間保存したい場合はSchlenk管に移し替えて保存すると良い。

※適宜時期をみて濃度を滴定(titration)しておくと良い。簡便かつ信頼性の高い方法としては、ジフェニル酢酸法[4]2,2′-ビピリジル法[5]が知られている。

※ヘキサンなど炭化水素系の溶媒中では一般に安定であるが、エーテル系溶媒中ではβ脱離反応を介し徐々に分解することが知られている( たとえばn-BuLiのTHF中0℃における半減期は24時間)。分解しやすさはDME>THF>ジエチルエーテルの順。

organolithium_8.gif
t-BuLiは反応性が大変高く、頻繁に発火事故を引き起こす。使用には十分注意し、大スケール反応の場合には、必ず消火器具を手元に備えておくこと。

 

参考文献

[1] Schlosser, M. Pure Appl. Chem. 198811, 1627.

[2] Roush, W. R.; Ando, K.; Powers, D. B.; Halterman, R. L.; Palkowitz, A. D. Tetrahedron Lett. 1988, 29, 5579. doi:10.1016/S0040-4039(00)80816-3

[3] Kerrik, S. T.; Beak, P. J. Am. Chem. Soc. 1991113, 9708. DOI: 10.1021/ja00025a066

[4] Kofron, W. G.; Baclawski, L. M. J. Org. Chem. 197641, 1879. DOI: 10.1021/jo00872a047

[5] Watson, S. C.; Eastham, J. F. J. Organomet. Chem. 19679, 165. doi:10.1016/S0022-328X(00)92418-5

 

関連反応

 

関連書籍

有機金属化学: 基礎から触媒反応まで

有機金属化学: 基礎から触媒反応まで

山本 明夫
¥5,280(as of 11/20 20:35)
Amazon product information
The Chemistry of Organolithium Compounds

The Chemistry of Organolithium Compounds

Wakefield, B. J.
¥12,387(as of 11/20 20:35)
Amazon product information

 

外部リンク

関連記事

  1. ポヴァロフ反応 Povarov Reaction
  2. ホフマン転位 Hofmann Rearrangement
  3. ワッカー酸化 Wacker oxidation
  4. ターボグリニャール試薬 Turbo Grignard Reage…
  5. カチオン重合 Cationic Polymerization
  6. ジンケ アルデヒド Zincke Aldehyde
  7. ビギネリ反応 Biginelli Reaction
  8. バートン・ケロッグ反応 Barton-Kellogg React…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 製薬各社 2010年度 第1四半期決算を発表
  2. 「炭素-炭素結合を切って組み替える合成」テキサス大学オースティン校・Dong研より
  3. 日本ビュッヒ「Cartridger」:カラムを均一・高効率で作成
  4. チャンパック・チャッタージー Champak Chatterjee
  5. アメリカで Ph.D. を取る –エッセイを書くの巻– (前編)
  6. 有機合成化学協会誌2019年5月号:特集号 ラジカル種の利用最前線
  7. ライオン、フッ素の虫歯予防効果を高める新成分を発見
  8. 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会(M&BE) 新分野開拓研究会2023 「電子とイオンの織りなすサイエンス: 材料・デバイス・センシング」
  9. 有機合成から無機固体材料設計・固体物理へ: 分子でないものの分子科学を求めて –ジャン ロッシェ材料研究所より
  10. 新人化学者の失敗ランキング

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP