概要
アルケン・アルキンの不均一系触媒による水素化。不均一系触媒条件では、水素圧・触媒・反応温度・溶媒などによって選択性が大きく異なる。水素はsyn付加する。有機合成上よく用いられる触媒としては、ラネーニッケル、パラジウム-炭素(Pd/C)、アダムス触媒(Adams’ catalyst: PtO2)、パールマン触媒(Pearlman’s catalyst: Pd(OH)2)などが知られている。
基本文献
- Adams Catalyst: Voorhees, V.; Adams, R. J. Am. Chem. Soc. 1922, 44, 1397. DOI: 10.1021/ja01427a021
- Pearlman’s Catalyst: Pearlman, W. M. Tetrahedron Lett. 1967, 8, 1663. doi:10.1016/S0040-4039(00)70335-2
- Raney-Ni-W2: (a) Pavlic, A. A.; Adkins, H. J. Am. Chem. Soc. 1946, 68, 1471. DOI: 10.1021/ja01212a023 (b) Mozingo, R. Org. Synth. Coll. Vol. 3. 1955, 181.
- Ni2B: (a) Brown, C. A. J. Org. Chem. 1970, 35, 1900. DOI: 10.1021/jo00831a039 (b) Brown, C. A.; Ahuja, V. K. J. Org. Chem. 1973, 38, 2226. DOI: 10.1021/jo00952a024
反応機構
反応例
近年、活性を低下させた不均一系パラジウム触媒Pd/(en), Pd/Fibが佐治木らによって開発[1][2]され、官能基選択的還元が実現されている。
実験手順、実験のコツ・テクニック
SやPなどの微量混入物が存在した場合、触媒活性は大きく低下する(被毒)するので注意が必要。特に、反応に用いるフラスコがしっかりと洗えているか、バルーンに揮発性のMe2Sなどが付着していないかなど、気を配る必要がある。また、触媒反応の1工程前にリンや硫黄を含む化合物が副生成物として得られている場合、精製をしっかりしておかないと反応が進行しないことがある。これらのことに常に注意してから反応を行うこと。また、Pd/Cによる水添によりジアミンなどが生成する反応の場合は生成物が触媒毒となりえる。その場合は酸の添加(Bnの脱保護)などが有効なことが多いので、考慮に入れること。
基本的に、マイルド反応はAcOEtを使い、MeOH、MeOHに酸の添加といった感じで還元能力が高くなっていく。
高圧水添の場合は必ず事故防止のため介助者を要請すること。(細かい規定は各大学や研究所の規定に従ってください。)
水素をリークすると、水素アラームが鳴るので注意。バルーンは二重のものを使ったり(私はデフォルトですが)、耐圧バルーンを使用することも可能。
大量スケールのPd/C還元やRaーNiなどの高活性な触媒は、しばしば乾燥下に発火するので、取り扱いには注意すること。典型的なワークアップはの手順は以下の通り
- 基本的に反応容器を水素から窒素に置換したのちに、撹拌、(大量スケールの場合はセライトを直接反応容器に投入し、効率的なセライトろ過を促進することも可能。)バルーンに入っていた水素は熱源や発火原が無いのを確認してドラフト内で放出。
- 大きめのフラスコに吸引アダプター、漏斗(ブフナー+ろ紙、桐山+桐山用ろ紙、三角+綿、基本的に吸引ろ過ができれば何でもOK、三角は比較的遅いがPdの廃棄と洗浄が便利なので筆者はよく使っています。)に適量のセライトを載せる。溶媒(AcOEt, MeOH, EtOHなど)で濡らし、バイアルの裏側で抑えてセライトを固める。(セライトがぐちゃぐちゃになっている場合は少しポンプで吸引して、セライトに添加した溶媒を少し除いてから再度固めるとしっかり固まってくれることが多い。この固める作業を忘れると、Pdなどがすり抜けてもう一度ろ過する羽目になる。)
- 水の入った洗瓶と水をあらかじめ添加したPd廃棄用ボトルを用意。(洗瓶の水は火が出た時の一時消火に役立つので必ず用意すること。)
- 吸引をスタート、窒素置換を終えた反応溶液を流し込み、溶媒でWashする。(この際、PdCを乾燥させないように手早くフラスコとセライトろ過の漏斗の洗いこみ行うこと。必要ならば少量の水でPdCを濡らすとよい。)
- まずはPdCの処理。水を含ませ、予め用意していたボトルに処分。
- 処分を確認して、濾過液の濃縮などを行う。
(24.03.2020 追記、Gakushi)
参考文献
[1] 佐治木弘尚,廣田耕作 有機合成化学協会誌 2001, 59,109. [2] (a) Sajiki, H.; Ikawa, T.; Hirota, K. Tetrahedron Lett. 2003, 44, 171. doi:10.1016/S0040-4039(02)02472-3 (b) Ikawa, T.; Sajiki, H.; Hirota, K.Tetrahedron 2005, 61, 2217. doi:10.1016/j.tet.2004.11.080関連書籍
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- Adams’ Catalyst (Wikipedia)
- Raney Nickel (Wikipedia)
- Palladium on Carbon (Wikipedia)
- Hydrogenation (Wikipedia)
- Heterogeneous Catalysis (Wikipedia)
- 水素化 (Wikipedia日本)
- ラネー合金 (Wikipedia日本)
- Reactions of Alkyene
- 官能基選択的接触還元触媒「パラジウム-フィブロイン」 (PDF、和光純薬時報)