概要
TPAP(nPr4N+RuO4–; TetraPropylAmmonium Perruthenate)は、空気・水分に安定で有機溶媒に可溶な化合物である。これを酸化触媒として用いることにより、アルコールをアルデヒドまたはケトンに酸化できる。四酸化ルテニウムより酸化力は弱く、二重結合の開裂などを起こすことは無い。一級アルコールの酸化はカルボン酸まで進まずアルデヒドで停止する。
手順も簡便で、反応は加速度的に進む。非常に温和な条件下進行するため、不安定物質や外れやすい保護基を持つ物質に対してよく用いられる。
基本文献
・Griffith, W. P.; Ley, S. V.; Whitcombe, G. P.; White, A. D. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1987, 1625. DOI: 10.1039/C39870001625
・Review: Ley, S. V. et al. Synthesis 1994, 639. doi:10.1055/s-1994-25538
反応機構
ルテニウム(VII)・ルテニウム(VI)が活性だと考えられている。自己触媒的挙動(反応が加速度的に進む)を示すため、そのメカニズムは下記に示すほど単純ではない。水はこの自己触媒形成を妨げるとされ、吸水剤MS4Aの添加を必要とする。NMOはルテニウムの再酸化剤として働く。
反応例
実験手順
一級アルコールのTPAP酸化によるアルデヒドの合成[1]
実験のコツ・テクニック
※TPAPはショートパッドシリカゲルカラムで簡便に除去できる。
※Na2SO3でNMOを還元して水洗するワークアップ法もある。
※大スケールの場合には反応が暴走する可能性があるので、NMO・TPAPを加える時には注意すること。 ※ 感覚的にNMOが十分ある状態で10分進まなければ、それ以上進まない。 ※ 溶媒はジクロロメタンが用いられるが、アセトニトリルを共溶媒とすることで、収率の向上がみられることも多い。
参考文献
[1] Griffith, W. P.; Ley, S. V.; Whitcombe, G. P.; White, A. D. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1987, 1625. DOI: 10.1039/C39870001625
関連反応
- 植村酸化 Uemura Oxidation
- アルブライト・ゴールドマン酸化 Albright-Goldman Oxidation
- オッペナウアー酸化 Oppenauer Oxidation
- パリック・デーリング酸化 Parikh-Doering Oxidation
- フィッツナー・モファット酸化 Pfitzner-Moffatt Oxidation
- 四酸化ルテニウム Ruthenium Tetroxide (RuO4)
- コーリー・キム酸化 Corey-Kim Oxidation
- 向山酸化 Mukaiyama Oxidation
- PCC/PDC酸化 PCC/PDC Oxidation
- TEMPO酸化 TEMPO Oxidation
- デス・マーチン酸化 Dess-Martin Oxidation
- スワーン酸化 Swern Oxidation
関連書籍
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外部リンク
- Ruthenium(III) and (IV) compounds
- ルテニウム (Wikipedia日本)
- TPAP (Wikipedia)
- 過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム (Wikipedia日本)
- OXIDATIONS (PDF)