概要
ジメチルスルホキシド(DMSO)-塩化オキサリル系によるアルコールの酸化。
DCC(Pfitzner-Moffatt酸化)、TFAA(Swern変法)、無水酢酸(Albright-Goldmann酸化)、SO3-ピリジン(Parrikh-Doering酸化)などもDMSOの活性化剤として用いられるが、塩化オキサリル法は副反応が起こりにくい点で優れている。TFAAを用いる方法は活性が非常に高いが、副反応もやや多めとなる。
試薬由来の副産物が低沸点で除去容易であり、大量スケールでのアルデヒド合成によく用いられる。 ただし、当量のジメチルスルフィドが生成するため、その悪臭が問題となる。
基本文献
- Huang, S.-L.; Omura, K.; Swern, D. J. Org. Chem. 1976, 41, 3329. DOI: 10.1021/jo00882a030
- Mancuso, A. J.; Huang, S.-L.; Swern, D. J. Org. Chem. 1978, 43, 2489. doi:10.1021/jo00406a041
- Omura, K.; Swern, D. Tetrahedron 1978, 34, 1651. doi:10.1016/0040-4020(78)80197-5
- Review: Mancuso, A. J.; Swern, D. Synthesis 1981, 165. doi:10.1055/s-1981-29377
- Marx, M.; Tidwell, T. T. J. Org. Chem. 1984, 49, 788. DOI: 10.1021/jo00179a009
- Review: Tidwell, T. T. Org. React. 1990, 39, 297.
- Review: Tidwell, T. T. Synthesis 1990, 857. doi:10.1055/s-1990-27036
- Review: Lee, T. V. Comprehensive Organic Synthesis 1991, 7, 291.
開発の歴史
米国の化学者Daniel Swern(テンプル大学)により開発された反応。
反応機構
DMSOと塩化オキザリルが反応して、クロロスルホニウム塩が生じ、これが酸化活性種として働く。この活性種は水に弱く、また-60℃で速やかに分解する。このため、本反応は低温(-78℃)・無水条件で行う必要がある。また有毒気体(CO)および悪臭(Me2S)を発するため、ドラフト内での作業が要請される。このため、実験操作・手順の煩雑さがやや欠点である。
副反応としてもっとも有名なものはメチルチオメチルエーテル化(MTM化)である。高温で反応を行うとクロロスルホニウム塩がPummerer転位を起こしたものがアルコールと反応し、MTM保護された生成物が得られる。
反応例
- 穏和な条件下で進行し、不安定なアルデヒドの合成にも使える。数ある酸化反応の中でも、最も頻用される一つであり、あらゆる適用例が見うけられる。以下に一例((+)-Thiazinotrienomycin
Eの合成[1])を示す。
- TFAA条件の例[2]
実験手順
塩化オキザリル(2.1mL, 24mmol)のジクロロメタン溶液(30mL)を-78℃に冷却し、ジメチルスルホキシド(3.3mL, 21mmol)のジクロロメタン溶液(32mL)を滴下する。激しいガスの発生が見られる。5分後、アルコール(4.0g, 20mmol)のジクロロメタン溶液(26mL)を加え、-78℃で15分撹拌する。トリエチルアミン(14.0mL, 100mmol)を一度に加え、-78℃で10分間撹拌した後、徐々に室温に昇温させる。ジクロロメタンで希釈後、飽和塩化アンモニウム水溶液、食塩水(x2)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥する。濾過後溶媒をドラフト内で減圧留去(悪臭のため)し、フラッシュカラムクロマトグラフィ(石油エーテル/酢酸エチル=9/1)で精製。目的のアルデヒドを無色液体として得る(3.88g, 収率96%)。[3]
実験のコツ・テクニック
※溶媒は通常ジクロロメタンを用いる。THF・ジエチルエーテルも使用可能。
※特に精密さを必要としない限り、基質:塩化オキサリル:DMSO:トリエチルアミン=1:2:3:6 のモル比で行うのがスタンダード。
※ジメチルスルフィド由来の悪臭が問題なので、全ての操作はドラフト内で行うこと。使用後のガラス器具は次亜塩素酸水溶液(bleach)に浸すことで、悪臭を除くことが可能。
参考文献
- Smith, A. B., III; Wan, Z. J. J. Org. Chem. 2000, 65, 3738. DOI: 10.1021/jo991958j
- Braish, T. F.; Saddler, J. C.; Fuchs, P. L. J. Org. Chem. 1988, 53, 3647. DOI: 10.1021/jo00251a001
- Taillier, C.; Gille, B.; Bellosta, V.; Cossy, J. J. Org. Chem. 2005, 70, 2097. DOI: 10.1021/jo048115z
関連反応
- コーンブルム酸化 Kornblum Oxidation
- 植村酸化 Uemura Oxidation
- アルブライト・ゴールドマン酸化 Albright-Goldman Oxidation
- オッペナウアー酸化 Oppenauer Oxidation
- パリック・デーリング酸化 Parikh-Doering Oxidation
- フィッツナー・モファット酸化 Pfitzner-Moffatt Oxidation
- コーリー・キム酸化 Corey-Kim Oxidation
- 向山酸化 Mukaiyama Oxidation
- PCC/PDC酸化 PCC/PDC Oxidation
- TEMPO酸化 TEMPO Oxidation
- TPAP(レイ・グリフィス)酸化 TPAP (Ley-Griffith)Oxidation
- デス・マーチン酸化 Dess-Martin Oxidation
関連書籍
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- Swern oxidation (Wikipedia)
- スワーン酸化 (Wikipedia日本)
- Oxidations (PDF)
- Swern oxidation
- Swern oxidation
- Swern oxidation (organic-chemistry.org)