[スポンサーリンク]

C

クライゼン転位 Claisen Rearrangement

[スポンサーリンク]

 

概要

アリルビニルエーテルからγ,δ-不飽和カルボニル化合物が生じる[3,3]-シグマトロピー転位反応を言う。

これはすなわち、Cope転位の炭素原子が一つ、酸素原子に置き換わった基質での反応である。Cope転位は通常可逆反応であるが、Claisen転位の場合には生成系が原系よりも熱力学的に安定であるため、不可逆的に進行する。

転位の際には酸素原子の根元の不斉は転写される。キラルなアリルアルコールはSharpless不斉エポキシ化CBS還元などの手法で比較的容易に得られる。これをClaisen転位に伏すことで、不斉炭素-炭素結合、とりわけ合成の難しい不斉四級炭素中心遠隔位の不斉中心をも効率的に構築できる。

芳香環のπ結合を介しても起きる。これは置換フェノールを得る手法の一つとなる。

claisen_2.gif

基本文献

  • Claisen, L. Ber. 1912, 45, 3157.
  • Claisen, L.; Eisleb, O. Ann. 1914, 401, 21.
  • Claisen, L.; Tietze, E. Ber. 1925, 58, 275.
  • Claisen, L.; Tietze, E. Ber. 1926, 59, 2344.

<review>

  • Tarbell, D. S. Org. React. 1944, 2, 1.
  • Rhoads, S. A.; Raulins, N. A. Org. React. 197522, 1.
  • Ziegler, F. E.Chem. Rev. 1988, 88, 1423. DOI: 10.1021/cr00090a001
  • Wipf, P. Comprehensive Organic Synthesis 19915, 827.
  • Castro, A. M. M. Chem. Rev. 2004, 104, 2939. DOI: 10.1021/cr020703u

 

反応機構

熱的[3,3]シグマトロピー機構(協奏的)で進行する。1,3-diaxial反発の最も少ないいす型六員環遷移状態を経由するとされる。他に理由がない限り、反応の立体選択性はこれで説明される。
Claise2.gif

反応例

酸素親和性の高いLewis酸を添加することで低温(速度論支配)でのClaisen転位を行うことが出来る。配位子を嵩高いものにすることで、熱力学的に不安定なZ-Claisen転位体も得られる[1]。
claisen_4.gif
近年では金触媒がユニークな特性を示すことが明らかにされつつある。プロパルギル-クライゼン転位をAu(I)触媒が促進させるという報告がなされている[2]。
claisen_5.gif
1-O-methylforbesioneのBiomimetic合成[3] claisen_6.gif

Quinineの合成[4]

claisen_rearr_7

Daphmanidinの合成[5]:液性を中性に近く保ったまま反応条件を強くすることができるため、混み合った位置に連続不斉炭素を構築するための強力な方法論となる。不斉四級炭素も構築可能。

claisen_rearr_8

実験手順

 

実験のコツ・テクニック

 

参考文献

[1] Nonoshita, K.; Banno, H.; Maruoka, K.; Yamamoto, H. J. Am. Chem. Soc. 1990, 112. 316. DOI: 10.1021/ja00157a049
[2] Sherry, B. D.; Toste, F. D. J. Am. Chem. Soc. 2004126, 15978. DOI: 10.1021/ja044602k
[3] Nicolaou, K. C.; Li, J. Angew. Chem. Int. Ed. 200140, 4264. [abstract]
[4] Igarashi, J.; Katsukawa, M.; Wang, Y.-G.; Acharya, H. P.; Kobayashi, Y. Tetrahedron Lett. 2004, 45, 3783. doi:10.1016/j.tetlet.2004.03.085
[5] Weiss, M. E.; Carreira, E. M. Angew. Chem. Int. Ed. 201150, 11501. DOI: 10.1002/anie.201104681

 

関連反応

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759808752″ locale=”JP” title=”ペリ環状反応―第三の有機反応機構”][amazonjs asin=”3527308253″ locale=”JP” title=”The Claisen Rearrangement: Methods and Applications”]

外部リンク

クライゼン転位(Wikipedia日本)
Claisen Rearrangement (Wikipedia)
Claisen Rearrangement
Claisen Rearrangement (organic-chemistry.org)
Claisen Rearrangement of aryl allyl ethers

関連記事

  1. エッシェンモーザー・タナベ開裂反応 Eschenmoser-Ta…
  2. 硤合不斉自己触媒反応 Soai Asymmetric Autoc…
  3. チオール-エン反応 Thiol-ene Reaction
  4. ジンケ アルデヒド Zincke Aldehyde
  5. 菅沢反応 Sugasawa Reaction
  6. フィッシャーカルベン錯体 Fischer Carbene Com…
  7. クラウソン=カース ピロール合成 Clauson-Kaas Py…
  8. グレーサー反応 Glaser Reaction

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【12月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスのエステル化、エステル交換触媒としての利用
  2. サミュエル・ダニシェフスキー Samuel J. Danishefsky
  3. トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン : Tris(pentafluorophenyl)borane
  4. 分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学
  5. タングステン酸光触媒 Tungstate Photocatalyst
  6. 【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に!
  7. 機械学習は、論文の流行をとらえているだけかもしれない:鈴木ー宮浦カップリングでのケーススタディ
  8. 巧みに設計されたホウ素化合物と可視光からアルキルラジカルを発生させる
  9. 大麻複合物が乳がんの転移抑止効果―米医療チームが発見
  10. 人工軟骨への応用を目指した「ダブルネットワークゲル」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP