概要
アルコールをチオカルボニル化合物へと変換後、ラジカル条件で脱酸素化を行う反応。ヒドロキシル基の除去法として最もポピュラーなものの一つである。
基本文献
- Barton, D. H. R.; McCombie, S. W. JCS, Perkin Trans. 1, 1975, 1574. doi:10.1039/P19750001574
- Crich, D.; Quintero, L. Chem. Rev.1989, 89, 1413. doi:10.1021/cr00097a001
- Roberts, B. P. Chem. Soc. Rev. 1999, 28, 25. DOI: 10.1039/A804291H
開発の歴史
本反応は1975年にイギリスの化学者バートンと当時博士研究員であったマクコンビーによって開発された。バートンは有機立体化学の概念を開拓した功績から1969年にノーベル化学賞を受賞していたが、その後も精力的に研究に携わった。マクコンビーは博士研究員の後、シェリング・プラウ(2009年にメルクに吸収合併)にて研究員を29年間勤めた。
反応機構
反応例
アルキルザンテートが良く用いられるが、フェニルチオカーボネート・チオカルボニルイミダゾレートなども本法には適用可能である。以下はその例[1]。
ラジカル中間体を捕捉する官能基が存在する場合、連続的に反応が進行しうる。以下は環化反応に用いた例[2]。
Azadirachtinの合成[3]
実験手順
実験のコツ・テクニック
ラジカル開始剤としては過酸化ベンゾイル(BzOOBz)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、Et3B/O2などが用いられる。特にEt3B/O2条件は低温でラジカルを生成させることができるため、複雑化合物合成において有用性が高い。VA-061(半減期温度61℃)やVA-044(半減期温度44℃)といった水溶性ラジカル開始剤も最近ではポピュラーになりつつある。
還元剤としてはトリブチルスズヒドリドBu3SnHが汎用される。しかし高い毒性と分離の難しさなどの問題もあって、近年ではトリス(トリメチルシリル)シラン(TMS)3SiHなどがその代替として活用されつつある。通常のトリアルキルシランに比べて結合開裂エネルギーがスズヒドリドに近く、ラジカル還元に適している。
参考文献
[1] Danishefsky, S. J. et al. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 6160. DOI: 10.1021/ja000521m[2] Tadano, K. et al. J. Org. Chem. 1995, 60, 8179. DOI: 10.1021/jo00130a017
[3] Veitch, G. E.; Beckmann, E.; Burke, B. J.; Boyer, A.; Maslen, S. L.; Ley, S. V. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7629. DOI:10.1002/anie.200703027
関連反応
- 還元的脱硫反応 Reductive Desulfurization
- マルコ・ラム脱酸素化 Marko-Lam Deoxygenation
- 分子内ラジカル環化 Intramolecular Radical Cyclization
- モヴァッサージ脱酸素化 Movassaghi Deoxigenation
- バートン脱カルボキシル化 Barton Decarboxylation
- バートン反応 Barton Reaction
- クレメンゼン還元 Clemmensen Reduction
- アルコールのアルカンへの変換 Conversion from Alcohol to Alkane
- ウォルフ・キシュナー還元 Wolff-Kishner Reduction
関連書籍
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関連リンク
・Barton-McCombie Reaction (organic-chemistry.org)
・Barton-McCombie Reaction (Wikipedia)
・Barton-McCombie Deoxygenation
・Barton-McCombie Reaction
・ラジカル開始剤 – Wikipedia
・ラジカル重合開始剤関連試薬(和光純薬、PDF)
・「・」ラジカル(有機って面白いよね!)