新年第二回目は第二回目の伊丹健一郎教授からの紹介で東京大学大学院薬学研究科教授の金井求先生にインタビューいただきました。先生は昨年から独立されて研究室を主宰されています。これまでも数多くの有用な不斉触媒反応を開発し、生物活性物質などに応用してきました。タイトルに「触媒から生命へ」とありますが、この研究室の方針からみると、今後も非常に大きなスケールの化学を展開してくれるものと信じています。それではインタビューをどうぞ!
Q. あなたが化学者になった理由は?
何らかの形で将来は研究者として生きていきたいなと思ったのは、大学1年生のときでした。中高と山岳部だったのですが、大学に入っても山登りはやめられず、確か槍、燕と縦走した帰りだったか行きだったか、岩の出っ張りから上昇気流が飛行機雲みたいに雲になって行くのを見たときに、自然は素晴らしいなと思い自然研究者になりたいと思いました。えらく単純なきっかけですが、若い感受性の豊かな当時は、インスピレーションに感激したのを記憶しています。
その後、人の生命にかかわる研究がしたいものの、医学部に行ける頭がなかったので薬学を選んだのですが、4年生の研究室配属のときにくじ引きで負けて、古賀先生の薬品製造化学教室に行くことになったのが、化学に足を突っ込んだきっかけです。それまで化学なんて授業もほとんど出てなかったので、かなり焦ったのを覚えてます。確か古賀先生の顔を知らなかったような。。。しかし、当時の古賀研究室の生き生きとした研究スタイルに徐々に惹かれて、今日に至ってます。くじで負けて良かったと今では思ってます。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
大学生のころはバブルの最盛期だったので、マスコミに行きたかったです。特にNHKクリエイティブに入って、映像で自然の素晴らしさをみんなに伝える仕事がしたかったです。理由は山に登ったり、ジャングルに行ったりできそうだと思ったからです。いまでも、サバイバル登山っていうのですか、ウサギとかシカとかを狩りしながら、山に入ってサバイバルしながら道なき道を頂上を目指していく冒険家にあこがれます。特に雪に抱かれた感覚。でもこれでは食べていけないですね。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
あ、これは身につまされる質問ですね。まだ全くできていませんが、生命現象に関連する複雑な構造を有する分子を簡単に作ること、自分がデザインし合成した分子が人間を救う薬につながること、今までとは違うパラダイムの疾病治療を実現することが夢です。病気で苦しむ人を救えたり、別れなくていい人と別れなくてすむような薬を作るための根源的な考え方を出したい。いろいろな分野の人と協力していかなければできないことだと思っています。この先25年間、この考え方は絶対ブレたくないです。15年後くらいにもう一回インタビューしてくれないかな。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
本来ある程度まともな人生を送っている人はどんな人でも、いろいろな経験を持っていると思うので、時間があればどんな人ともゆっくり話を聞きながら夕食をとるのは好きです。歴史上の人物ですと、アレクサンダー大王、チンギスカン、カエサル、唐の太宗。古いパラダイムを壊して、飽くことなき征服欲を持って,しかもゆるぎない新秩序を確立した人たちですね。機嫌が悪いといやですが、やっぱり信長の話も聞きたいです。指導を仰ぎたいのは諸葛孔明、羽の生えたような自由な生き生きとした発想が好きです。歴史上ではないですが、椎名林檎。デビューのときからへーっと思ってたのですが、10年たってもまだまだ才能あふれてる。相当な努力をしてるんじゃないかな。
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Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
2009年の12月29日です。フェニルアラニンと何かを水の中で混ぜた記憶がありますが、何をやったか忘れました。学生が実験台の上で5個くらい年越しの反応を回していたのを見たら、思わず混ぜてみたい衝動を抑えきれず仕込みました。が、予想通り、TLCを見ただけで後処理はしませんでした。でも何年か後に必ずや実験に戻ってやるという意気込みはありますし、戻るであろう確信もあります。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
1つですか、難しいですね。本だと、江藤淳「南洲残影」。西郷隆盛を撃った明治の初期にすでに太平洋戦争の失敗の遠因を見出し、日本人の失ってはいけないものを再確認してくれる本です。詩的な美しさも好きです。音楽だと、クイーンの2枚目のアルバム。壮大かつ美しさとパワーにあふれてます。クイーンの才能が最高潮にあるときのアルバムだと僕は思ってます。
[amazonjs asin=”4167366118″ locale=”JP” title=”南洲残影 (文春文庫)”]Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
山本尚先生、村井眞二先生、中村栄一先生。いろいろな意味でスケールが大きい。福山透先生。無茶苦茶面白いけど、本当はこわい。ある程度歳が近い人だと、京大の今堀博先生、杉野目先生、中村正治先生、名古屋の大井貴史先生、山口茂弘先生、忍久保先生、九大の小江誠司先生、東北の寺田先生、東大工の藤田誠先生、東大理の小林修先生、塩谷先生、同僚の井上将行先生。京大や名古屋は僕より山口潤さんの方が良く知っているでしょうが、大変優れた人が多いですし、外からの声が無いとやりにくいかなと思い挙げさせていただきました。
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2020年5月1日 第一回ケムステバーチャルシンポジウム「最先端有機化学」より
金井 求 教授の略歴
1989年東京大学薬学部卒業後、修士、博士課程に進学(古賀憲司教授)、1992年に中退し大阪大学産業科学研究所助手(富岡清教授)となる。1995年に博士を取得した後、Wisconsin大学博士研究員を経て、1997年に東京大学大学院薬学系研究科助手(柴崎正勝教授)、2003年に助教授、2010年に教授となり現在に至る。2001年日本薬学会奨励賞、2005年にMerck-Banyu Lectureship Awardなどを受賞している。