森謙治(もりけんじ、1935年3月21日-2019年4月16日 )は、日本の有機化学者である。東京大学名誉教授(写真:有機合成化学協会)。
経歴
1957 東京大学農学部農芸化学科卒業
1959 東京大学大学院農学系研究科農芸化学専門課程・修士課程修了(中村道徳教授)
1962 東京大学大学院農学系研究科農芸化学専門課程・博士課程修了(松井正直教授)
1962 東京大学農学部助手(松井正直教授)
1968 東京大学農学部助教授
1978 東京大学農学部教授
1995 東京大学名誉教授、東京理科大学理学部教授
受賞歴
1965 農芸化学賞
1981 日本学士院賞
1992 日本農学賞、読売農学賞
1996 国際化学生態学会シルバーメダル(最高賞)
1998 藤原賞
1999 Ernest Guenther賞(アメリカ化学会)
2002 有機合成化学特別賞
2010 キラリティーメダル
2010 瑞宝中綬章
研究概要
ジベレリンの化学合成
松井正直教授から博士論文のテーマとして提示されたのはジベレリンの合成であった。研究開始当初はジベレリンの構造も未確定であり、当時の有機合成の方法論では困難なテーマであったが、合成化学的手法、黎明期のNMRを取り入れた手法によりジベレリンの構造決定に貢献し、さらに世界初の合成(リレー合成)に成功した[1]。合成には9年の歳月を要したとされる。
昆虫フェロモンの合成
光学活性化合物の合成にあまり注目が集まっていなかった1970年代前半から、昆虫フェロモンの生物活性と鏡像異性との間の関係を明らかとするべく、フェロモンの純粋な鏡像体の合成を精力的に行った。1973年に報告したヒメマルカツオブシムシの性フェロモンであるtrogodermalの天然物の絶対立体配置の決定は、昆虫フェロモンの絶対立体配置決定に関する世界初の論文である。
その後250報以上の昆虫フェロモン合成に関する論文を発表し、多様な立体化学ー生物活性相関を明らかとした。例として、1) 片方の鏡像体は活性を有し、もう一方の鏡像体は活性が全くない(exo-brevicomin等)、 2) 一方の鏡像体に活性があり、もう一方の鏡像体は活性を阻害する(disparlure等)、3) 一方の鏡像体は雄に、もう一方の鏡像体は雌に対する活性がある(olean)、などがある。
コメント&その他
1. ジベレリンの合成達成直後、微生物学の有馬啓教授から「やあ、森君おめでとう。とうとうできたなあ。だけどなあ、君忘れるなよ、Gibberella fujikuroiは3日でジベレリン作るぜ。君は9年かかっただろう。」と言われ、生物が簡単にかつ大量に作る化合物を合成しても生物学者は評価してくれない、よって生物界からは微量しか得られないものを人間の力で大量に合成することを志し、以降の昆虫フェロモンの合成研究へと繋がったとされる[3]。
2. 松本サリン事件、及び地下鉄サリン事件の際、メディアに対して有機化学者の立場から中立的なコメントを寄せた。松本サリン事件の被害者であるにも関わらず当初重要参考人とされていた河野義行氏は、後にその中立的なコメントに謝意を示している。
3. 父が牧師であった影響もあり、敬虔なクリスチャンである。
名言集
関連動画
関連文献
[1] Mori, K.; Shiozaki, M.; Itaya, N. Matsui, M.; Sumiki, Y. Tetrahedron 1969, 25, 1293. DOI: 10.1016/S0040-4020(01)82702-2 [2] Mori, K. Tetrahedron Lett. 1973, 14, 3869. DOI: 10.1016/S0040-4039(01)87060-X [3] 森謙治 生物活性天然物の化学合成, 裳華房
関連書籍
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