皆様はホスト-ゲストケミストリーという言葉をご存知でしょうか。
ご存知の方も多くいらっしゃるとは思いますが、筆者の勉強も兼ねて、ホスト‐ゲストケミストリーについてすこしだけ書いてみようかと思います。
ホスト‐ゲストケミストリー、非常にざっくりと言い表せば以下の様になります。
『比較的弱い相互作用で、大きな分子が小さな分子を捕まえる化学』
弱い相互作用というのは水素結合、イオン結合、親水性相互作用、疎水性相互作用やもっとマニアックな相互作用など枚挙に暇がありません。
この場合の大きな分子は捕まえる方ですからホスト分子といいます。一方、捕捉される小さな分子をゲスト分子と呼びます。
ホスト分子の例としてシクロデキストリン(cyclodextrin)というものを挙げてみます。これはD-グルコース単位がα(1→4)グルコシド結合によって結合し、環状になった分子で、正に環状デキストリンです。以下CDと略記します。
グルコースは水に溶けますから、それを構成単位とするこのCDも水に溶けるということは想像に難くありません。
しかし、化学結合の妙といいましょうか、CDを構成するグルコースの酸素原子(下図での赤色の球)というのは、全てCD環の外側に向いております。
すると、どうでしょうCDの環の外側は親水性、そして内側は疎水性という芸術的ともいえる構造の化合物が出来上がるのです。
これによってCDは、水環境中で比較的疎水性の分子を取込み、そして疎水性分子を水中に分散させることができるわけです。
ミソは水環境ということ。疎水性分子というのは当然水に馴染みません。しかしここへ内部が疎水性のCDを放り込みます。すると疎水性分子はCDの穴へと自発的にはまり込んでしまいます。
エネルギーダイヤグラムで考えてみます。疎水性分子と水は相性がよくありません。つまり疎水性分子が水に分散している状態というのは、エネルギー的には不安定。ここへ投げ込まれたCDは疎水性分子から見ればエネルギー井戸のように見えます。従って、CDの中へ入れば安定になれる。エネルギー的に安定になりたい疎水性分子は、喜んでCDの孔に飛び込んでいくわけですね。
またCDには構成単位の員数によって6、7、8員環のCDそれぞれα-、β-、γ-CDという風に呼びます。員数が増えれば必然的に環径も大きくなります。
CDに限りませんが環状ホスト分子というのは、環の大きさによってその環径にぴったり合うゲストを選択的に捕まえることができます。ホストとゲストの組み合わせによっては更に複雑な選択性を示すものも発見されているようです。条件に合うものを選択的に捕まえるというのは、酵素反応でいう鍵と鍵穴の関係に似ています。
このようにホスト-ゲストケミストリーは分子の形に注目する化学といえるのではないでしょうか。
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関連リンク
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- シクロデキストリン|wikipedia
- 大阪大学大学院理学研究科 高分子科学専攻 原田研究室HP
- 有機の王冠