ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)とは、特定の塩基配列をもつDNA断片を迅速に増幅できる技術です。
1986年にキャリー・マリスによって発明されました。彼はデート中にPCR法の着想を得た、というユニークな逸話をもつ技術としても知られています。この功績によりマリスは1993年のノーベル化学賞を受賞しています。
プライマーという短いDNA断片に挟まれる区間のDNA配列を、指数関数的に増幅させることが出来ます。現在では分子生物学・医学など、DNAを扱う研究領域であれば常套手段となっています。
その威力は絶大なもので、フェムトモル(1000兆分の1モル)程度のDNAがあれば、検出容易な程度にまで増幅が可能だとか。いやはや凄いですね。
比較的身近では、犯罪捜査におけるDNA鑑定がその応用先としてあげられます。遺留品から採取されたヒトDNAのなかでも、個人差の大きな部分の塩基配列をPCRで増幅して調べています。
PCRの流れ
PCRでの増幅反応を行う際には、まずPCRチューブと呼ばれる2 cmほどの大きさのサンプルチューブに試薬を入れます。必要な試薬は、鋳型となるDNA(テンプレートDNA)、増幅の位置を決めるための二種類のDNA断片(プライマーforward & reverse)、DNAポリメラーゼ、DNAの原料となるデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP; N = A, T, G, C)、そしてバッファーです。
サンプルが用意できたら、チューブをPCR装置にセットして、各サイクルの温度や時間、サイクル数を設定します。PCRでは、DNAの解離、プライマーの結合、DNAの重合(伸長)という3つのステップを何度も繰り返すことで、サンプルを増幅させます。DNAの解離は約98 ºC、DNAの伸長は約72 ºC(ポリメラーゼの最適温度)とほぼ決まっており、プライマーの結合温度には、個々のプライマー配列に特有な解離温度(Tm値)を設定します。DNAの伸長ステップの時間は、増幅したいDNA配列の長さに合わせて設定します。
プライマーのデザイン
PCRにおいて特に重要なのが、プライマーのデザインです。プライマーは、増幅したい配列を挟むようにしてデザインします。
プライマーデザインにおいて気をつけるべきなのは、一般的に以下の点です。(使う試薬によって異なる場合もある。)
- 長さは18-24塩基程度
- グアニン(G)・シトシン(C)含有率が40-60%程度
- 終わりと始めはGやC
- Tm値は50-60°C程度
- 2つのプライマー(forward & reverse)のTm値の差は5 ºC以内
- 2つのプライマーが相補的にならない
以下のムービーも参考にどうぞ。