概要
―ネタがあっても論文にならない,書こうと思っても進まない,書く時間がない,アクセプトされない
論文が書けない理由から迫る症状別解決策!
従来のマニュアル本とは一線を画す,論文執筆のための新機軸!多くの若手医師・研究者の研究,学会発表,論文執筆を指導してきた著者が,その経験から見えてきた「論文が書けない理由」を40のQuestionにまとめ,珠玉のメッセージと方法論だけはない独自の視点で解決します。
簡潔な構成なので,忙しい合間にも読み進められます。目次の40のQuestionを是非ご覧ください! あなたの論文が書けない理由がきっと見つかります。(内容紹介より)
対象
- 論文執筆経験に乏しい若手研究者(大学院生~博士研究員)
- 論文執筆を指導する立場にある駆け出し助教~PI
解説
2016年7月に発刊されたばかりの論文執筆ノウハウ本のひとつ。先日レビューした佐藤雅昭 著「なぜあなたの研究は進まないのか」の姉妹本として同時刊行されている。
こちらも前著と同じく、論文執筆における「Question」が40個掲げられ、それぞれの末尾に著者なりの考え方が「Message」として掲載される構成になっている。「論文が書けない理由」を掘り下げ解決策を提示していくことで、論文執筆に伴う負担を減じていく、というアプローチが独特であり、そのためにQuestionが提示されている。本書もやはりテクニック/枝葉末節的な話ではなく、どちらかというと心構え的な話が多くなっている。下記のQuestionが真っ先に取りあげられていることからも、その執筆姿勢はうかがえるだろう。
Q1 「何のためにあなたは論文を書くのか、明確な答えがあるか?」
論文を書くのは大変な作業なので、明確な目的がある都内とでは、ゴールにたどり着けるかどうかが変わってくる可能性があるからです。(中略)論文をキャリアアップの道具とだけ見ていたのでは、だんだんその作業は空しくなるでしょう。もっと純粋に追求するものがなければ、貴重な人生の一部を費やす価値が無いように思えます。究極的には、「何のために生きているか?」「何のために仕事をしているか?」という人生のミッションに関わる問題であると言えるでしょう。
後の章では、ノウハウ的側面が濃い話になっていくが、最後の一章を割いて「書いただけで終わらないように」との観点に言及があるのはユニークな点だ。たとえば下記のQuestionなどは、人間くさい心理に関わる意外に重要な話と思われるが、この辺りに触れている論文読本はあまり多くないように思われる。
Q38 「書き上げたはずの論文が放置されていないか?」
いろいろな人が研究・論文に取り組むのを見てきましたが、「論文が書けない」という人が、全くWord文書が埋められないと言う人は稀です。多くの場合、論文は一通り書いている(ように見える)のに、それをaccept/publicationされるところにまで持っていけない(いかない)のです。(中略)実は論文を書いた側の問題で一番根が深いのは、初稿を書き終えた段階で燃え尽きてしまって、それ以上の手を打とうとしなくなることです。(中略)時間をかけて論文を見て貰った時点で、その論文は既にあなただけのものではないということです。
このQuestionとコラムでは「忙しい指導教官に論文を読んで貰い、指導を受けやすくする工夫」などについても、丁寧に心構えが述べられている。要はどんなお願いをするにしても、相手を立ててアプローチすることで上手く行く、ということに尽きるのだが、論文執筆初心者はそこまでの余裕が無いため、意外と配慮を落としがちではないだろうか。
以前紹介した「できる研究者の論文生産術―どうすれば『たくさん』書けるのか」の内容にも通ずる点が多く見られる。
論文執筆にどうにも気乗りしない人、論文執筆を行ったが途中で心折れてお蔵入りさせてしまった人、などは一読・併読してみるのが良いだろう。