内容
学界と企業研究所を渡り歩き、東大教授に登り詰めた著者が語る、研究者人生成功の極意!
【研究室のボスは、あなたの何を評価しているのか?】
理系の若者にとって「研究者」は憧れの職業。先輩や教授といった他人とうまく付き合い、研究室という組織の力を活かすのが、この職業で成功するコツだ。本書は、「学生」「院生」「ポスドク」「グループリーダー」と段階を追いながら、それぞれのポジションでどう判断し、行動すべきか、実例を交えて案内する。研究に行き詰まっている人も、読めばきっとヤル気が出る!(内容紹介より)
対象
- 現在研究者として過ごしている人
- これから研究者を目指そうとしている人
解説
東京大学・長谷川修司教授の手による本書は、研究の世界はどういうものであって、研究者は日々どう取り組むべきなのかを示す、いわゆる“研究ノウハウ本”の一つです。しかしよくある書籍と違い、「ノーベル賞を取るためには」「研究テーマの選び方」などといった話はほとんど出てきません。
本書が際だってユニークなのは、「研究者の社会性・人間関係・世渡り」に焦点を当てて解説している点にあります。研究者を目指す学生を見ていると、意外なほどそこへの認識・理解が欠けているようだ・・・との問題認識が、執筆動機の一つになっているようです。もちろん「政治家」と揶揄されるほどのトリッキーな話ではなく、人対人としての常識論が主です。
ただ、研究界は特殊な文化を持っており、一言で「社会性」と言っても簡単ではありません。研究者としてキャリアを積んでいく過程で、少しずつ異なる視点が必要になってきます。そういった実情を踏まえ、キャリアステージ毎の章立てに基づき、話題が展開されています。
第1章 魅力的な職業「研究者」
第2章 研究者への助走――大学院生編
第3章 研究成果の発表――うまくやっていく技術編
第4章 若手研究者として――ポスドク・助教編
第5章 独立して自分の研究グループを持つ――准教授・教授・グループリーダー編
第6章 研究とは、研究者とは
たとえば「大学院生」の章で紹介される
「研究室選びの際には、研究室訪問を必ずする」
「自分の都合より、教えを請う先輩の都合を優先する」
「先生の提案を実際にやってみせ、つまらないことをデータで説得的に示すのが優秀な学生」
「周りの研究者から援助されることが上手い人は、研究者としての能力に優れているとも言える」
などは、研究室の同僚関係・上下関係に強く関わるものです。いかにも当然の話かも知れませんが、いずれ社会に羽ばたいた時に「知らなかった」では済まされない、実践できないことで明確な不利益を被る基本的内容でもあります。
そもそも研究室内部は隔離環境であり、育まれる人間関係やルールも特殊なことが少なくありません。居心地の良さに甘え、対人スキルの改善を放置しがちな環境要因を内包しがちであるということは、知っておくべきでしょう。
また昨今は分野横断・共同研究の流れが加速しており、異分野の研究者とやりとりしながら成果を上げる取り組みが欠かせません。そのような潮流下にあっては、研究グループ・学会・市井などで自分の存在感を示し、後輩を指導し、同僚・競争相手と上手くやっていく・・などが、これまで以上に避けて通れない世界になりつつあります。人間くさいスキルが研究の成否を決める局面は、一層増えているとも取れます。
もちろんサイエンスの世界には、自然界・無機質と向き合い続けなくてはならない分野も多くあります。化学などはその典型といえるかも知れません。しかし現場で取り組み、評価し合うのは、紛れもない人間同士なのです。
そういった本質と「立場によって物事の見え方と優先度が違う」事実を理解し、客観的な目と消化の仕方を育むためにも、一度は目を通しておく価値のある書籍だと思います。特に研究室に入って日が浅い学生さんにとっては、有益な話が多いのではないでしょうか。
ところで、本書で個人的に良いなと思えた見方は
「教養とは、自分の専門や考え方を相対化できる能力のことである」
というものです。細分化・タコツボ化が進む科学研究において、幅広い分野を見渡せる目の醸成は、今後とも一層求められます。人間関係も同じです。客観的・相対的に捉えることができれば、スムーズに研究が進む側面はあると思います。真に身につけるべきは、小手先の技術ではなく「教養力」「人間力」なのかもしれません。自戒を込めつつ、紹介しておきます。
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