[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

密度汎関数法の基礎

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4061532804″ locale=”JP” title=”密度汎関数法の基礎 (KS物理専門書)”]

内容

量子化学の主要理論となっている密度汎関数法の基礎を量子化学的視点から概観し、密度汎関数法が化学の分野で何を目指しているのかを、量子化学計算を行なう際に密度汎関数法に求められる用件を説明することによって明らかにする。

それによって、量子化学における密度汎関数法の到達点を理解していただくとともに、化学を演算的に説明するためには密度汎関数法にもとづく量子化学的アプローチが極めて有効であることを納得していただくことを期待している。

まえがき」より

 

対象

化学系(理論・実験系)の大学院生

 

解説

同じ著者によるDensity Functional Theory in Quantum Chemistryという本がSpringer社から出版されているが、今回紹介する「密度汎関数法の基礎」は日本語で書かれており、より初学者に向いている。

計算化学の理解が一般に普及しないのは、優れた教科書が無いためだと考えられる。量子力学の教科書は、専門知識が不足している化学者に取っては読みづらく、また「すぐ出来る量子化学計算」などは、読みやすいが理論的背景についての解説がないといった問題点があった。

化学者にも理解しやすく、背景理論の説明もしっかりしているという点において、本書を超えるDFT計算の教科書はない。計算化学を行なうすべての有機化学者に本書をお勧めする。

 

本書は7つの章から構成されている。1〜3章では量子力学の基礎を4章以降でDFT計算について説明している。

第一章では、量子化学の歴史から始まり、シュレーディンガー方程式、波動関数の解釈、分子の並進運動、振動運動、回転運動の量子化などを最小限の数式を用いて分かりやすく解説している。

第二章は、ハートリー・フォック法についての解説である。計算化学を行なう者であれば知っておきたいスレーター行列式、ローターン方程式などの解説も充実している。

第三章では、ハートリー・フォック法の問題点である電子相関について解説している。ハートリー・フォック法が電子相関について問題があることは良く知られている。しかし、それがなぜ生じるのか、どのようにして解決すれば良いのか、また数式ではどのように表されるのかを解説している化学者向けの本はない。本書では、初学者にも分かるように必要最低限の数式を用いて解説している。

 

第四章では、コーン・シャム法について解説している。密度汎関数法の基礎となったトーマス・フェルミ理論から始まり、ホーエンベルグ・コーン定理を経て、コーン・シャム方程式の成り立ちから理解の仕方まで、詳しく解説が為されている。

第五章ではDFT計算における様々な汎関数について解説が為されている。計算化学の論文等を読むと様々な汎関数が使用されているが、それらの解説が為されている本は無い。また、汎関数開発についての論文は物理学の知識が必須のため化学者には理解が困難であった。本書では、汎関数の近似方法による分類の仕方、それぞれどのような特徴・問題点があるかについて数式を用いて理論的に解説してある。また、有機化学者に取って非常に有名な汎関数であるB3LYPについても数式を用いて、その成り立ちから詳しく解説してある。

第六章では、汎関数に対する様々な補正について解説してある。

第七章では、軌道エネルギーについての解説が行なわれている。

 

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4431548246″ locale=”JP” title=”Density Functional Theory in Quantum Chemistry”][amazonjs asin=”4061543881″ locale=”JP” title=”新版 すぐできる 量子化学計算ビギナーズマニュアル (KS化学専門書)”]
Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. 動画でわかる! 「575化学実験」実践ガイド
  2. 2016年8月の注目化学書籍
  3. Greene’s Protective Groups…
  4. Name Reactions: A Collection of …
  5. 【書籍】セルプロセッシング工学 (増補) –抗体医薬から再生医…
  6. 集積型金属錯体
  7. 入門 レアアースの化学 
  8. 生物活性物質の化学―有機合成の考え方を学ぶ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 史跡 土肥金山
  2. 水素化ナトリウムの酸化反応をブロガー・読者がこぞって追試!?
  3. IKCOC-15 ー今年の秋は京都で国際会議に参加しよう
  4. スケールアップ・プロセス検討におけるインフォマティクス活用 -ラボスケールから工場への展開-
  5. DNA origami入門 ―基礎から学ぶDNAナノ構造体の設計技法―
  6. 世界初!反転層型ダイヤMOSFETの動作実証に成功
  7. 秋の褒章2014ー化学分野からは準結晶研究の蔡安邦教授に
  8. 最新プリント配線板技術ロードマップセミナー開催発表!
  9. Whitesides教授が語る「成果を伝えるための研究論文執筆法」
  10. アメリカ大学院留学:博士候補生になるための関門 Candidacy

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー