概要
本書は”炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす”で、いや”ふしぎな国道”で注目を集めているサイエンスライター佐藤健太郎氏の最新作である。氏は炭素文明論において化学物質、主に有機化合物が人類史にどう影響したのかを論ずるなど、非常にユニークな切り口の書を出版し続けているが、本書は他でもよくありがちな、現在の最新の、または未来の科学技術に関する情報を紹介する書である。そういった書は定期的に出てくるので特筆することも無いのだが、本書にはやはり佐藤氏のユニークな語り口やマニアックとも言えるトピックスが数多く含まれている。
対象
一般、高校生、大学生
解説
一方で一般市民を置いてけぼりにするような専門的解説書にはなっていないというバランスの取れた書であり、化学に馴染みのない読者に対して平易にかつ丁寧に説明がなされている。化学に関連する書であるが、構造式は数えるほどしか出てこない。形式としては佐藤博士とその妻の問答となっていることから、化学者の立場、または一般人の立場のどちらの視点から読んでみても楽しめる。
また、化学に関連する部分の説明は太字で強調するなど工夫があり、流し読みしても内容は十分に伝わるであろう。
トピックスとしては”化学で透明人間になれるかどうか”は本書の主題ではなく、化学に関するよくある一般的な誤解などを多く取り扱っている。帯には「がん治療」、「石油・金」など耳目を惹きそうなものが挙げられている。科学者の蘊蓄”あるある本” としても読めるが、科学者の端くれである筆者の家庭でもたまになされる会話が収録されてしまったのかと錯覚するほどリアルなやりとりがあり、化学にあまり興味がない方にぜひお勧めしたい書である。
本書では夢を叶える最新研究を取り上げており、ドラえもんの話題も一部登場する。ドラえもんは国民に広く知られる通り、荒唐無稽なものから現実的なものまで様々な未来の道具が登場する。言われてみればドラえもんの道具は子どもの夢の実現であり、のびた君の無茶振りにドラえもんが応えるという図式であった。ある意味科学者はドラえもんのようになることが可能かもしれないが、科学者自らが”のびた君のような無茶振り”、すなわち実現可能性が低いかもしれない研究テーマに挑戦することが少なくなっているのではないだろうか。
実は夢の無い科学者に対する佐藤氏からの強烈なメッセージが本書に込められているというのは勘ぐりすぎだろうか。