最近のJ. Am. Chem. Soc.誌を眺めてみると、下図のようなマークが著者名に付くことが増えてきました。これはORCID(オーキッド)のロゴマークです。
これは一体なんなんだ?と思っていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はだいぶ前から存在していた仕組みなのですが、アメリカ化学会が公式採用した事実からも、どうやら化学界でも国際標準になりそうな香りを感じます。今回はこれを簡単に解説してみます。
ORCIDとはなんぞや?
ORCID(Open Resercher and Contributor IDの略称)とは、研究者個々人を区別するために、研究者一人に一つの ID(16桁の番号)を割り振るサービスです。研究者版マイナンバーと言えば分かりやすいでしょうか。
たとえば同姓同名の研究者を区別したり、個々人の研究履歴を継続管理することは重要です。
ご存じの通り、中国系研究者などは英名表記が区別しづらいものです。彼らの立場からしてみれば、業績がビジブルになりにくいというだけでなく、グローバル社会での先取権を主張するのも困難な状況です。また結婚や文化的事情などで文献上の姓名が変わったり、所属研究機関を異動してしまうと、著者名を軸にした一連の研究を辿ることも難しくなってしまいます。
個人情報をグローバル標準IDと紐付けることで、上記問題の解決を目指しているのがORCIDというシステムなのです。
なぜ普及しつつあるのか?
グローバル研究者ID制度は、昨今のサイエンス領域における劇的な変化を受けてニーズが高まっています。より具体的には、研究論文数の激増、中国人研究者の激増、国際共同研究の増加、1報あたりの平均論文著者数の増加(多いものでは2000人!)が背景にあると思われます。
我が国のマイナンバーと同じく、持っているだけで手厚いサポートが受けられる類のものではありません。しかしながらORCIDを上手く活用した事務処理コスト削減の恩恵に与れる機会は、今後とも増えていくと予想されます。
たとえばORCIDは、研究支援サービスや研究費応募システムなどとの連携も想定されています。これらのサービスは使用のたびに研究者情報を登録しなくてはなりませんが、世界標準IDに紐付けされた個人情報を使うことができれば、その事務処理作業を大幅に軽減できます。
また業績管理面でも利がありますので、J. Am. Chem. Soc.誌に限らず、論文投稿時に提出を求められる機会も増えてくるでしょう。アカデミック職なら、就職活動時にORCID提出義務を課されるようになったとしても、何らおかしくはありません。
取得は非常に簡単で、公式ページから無料で取得できます。研究者として今後とも過ごす予定がある方は、取得しておくのが良いと思います。
関連動画
関連リンク
- ORCID 公式ページ
- ORCID – Wikipedia
- ORCID IDとは何か(PDF)
- Increase the Discoverability of Your Research with ORCID (ACS axial)
- ORCIDについて述べた日本語解説記事もいくつかありますので、そちらも参照いただければと思います(エディテージ・コラボリー・エナゴ)。