再生医療とは、病気やけがなどで失われた臓器や組織の働きを再生させるため、細胞や組織を体外で培養したり、加工したりして体に移植する医療のこと。現在この再生医療が全盛を迎えており、関連研究は日進月歩で進んでいます。2050年には世界の再生医療の市場規模は53兆円に達すると予測されています。
今回、関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」の特集「再生医療」(2016年No.3)に掲載された記事を紹介したいと思います。
昆虫に学ぶ期間再生
「事故などで失った手足を再生することができる。」遠くない未来にそんな再生医療が達成される期待はありますが、現状は複数種の細胞が立体的な構造を形成する手足のような期間を再生することは困難です。
一方で、「トカゲの尻尾きり」という諺にあるように、トカゲは敵に襲われると尻尾を自切し、その後再生することができます。両生類の再生能力も大変高く、イモリやサンショウウオは手足や尻尾、脳や心臓の一部ですら再生可能です。さらに、昆虫類は、幼虫が非常に高い再生脳をもっていることが知られています。
岡山大学の大内淑代教授らは、昆虫類、特に亜熱帯に生息するフタホシコオロギを再生モデル昆虫として、その脚が再生するメカニズムの解明に取り組んでいます。今回の記事では、その内容の詳細について述べています。
応用利用にむけた低分子化合物によりひとiPS細胞の培養
2006年に山中教授らが作製に成功したiPS細胞(誘導型多能性幹細胞)。
この画期的な成果によって、倫理上の問題に縛られることなく、多用なiPS細胞を作製・研究することが可能となり、再生医療研究が加速したのはいうまでもありません。しかし、これら基礎研究の段階の研究は、最終的に応用利用へと発展させなければなりません。今後の重要な課題の1つは「いかにしてiPS細胞を大量かつ安定的に供給できるか」ということ。つまり、効率のよい人iPS細胞の培養手法の開発が求められています。京都大学iCeMSの長谷川光一特定拠点講師らは、今回の記事のついてこの課題への取組みについて開設しています。
ヒトiPS細胞の分化誘導プロセスにおける細胞の構造構築段階の重要性
ヒトiPS細胞の分化誘導プロセスは、以下の3つの段階に分けられます。
- 維持増幅:細胞の継代・維持と必要な細胞を確保するために細胞増殖を行う
- 構造構築:分化誘導前に細胞の単層化や三次元に構造化する
- 分化誘導:液性因子などを用いて積極的に分化誘導を行う
この中でも、2の構造構築段階は初期三胚葉への分化が決定する重要な段階。この段階で目的細胞とは異なる系列の胚葉に分化すると、その後の分化誘導プロセスは成功しないからです。したがって、この段階の細胞集団の品質を管理することが課題となります。通常、この段階では、三次元細胞集塊である胚葉体(embryoid body: EB)を形成しましが、大きさの制御にかかわる、品質の再現性が問題となっています。
山梨大学の黒澤尋教授らは本記事において、細胞非接着性96-well丸底プレートを使用することによって、胚様体の大きさの制御を試みています。また、胚様体の大きさの違いと分化の方向性に与える影響を明らかにしています。さらに、形成した胚様体の大きさがヒトiPS細胞から心筋細胞への分化効率に及ぼす影響について調査しました。
患者本人の細胞を培養し組織化させる「細胞シート工学」。細胞シート作製を簡略化した温度応答性培養皿の開発により、現在前、様々な細胞が培養されています。東京女子医大の清水達也教授らは本記事で細胞シート工学の芽生えから、各方面での細胞シート工学の医療応用、さらに、今後の医療への発展を紹介しています。
というわけで、化学関係の方にはかなり難しい記事内容となっていますが、注目されている再生医療に関する特集であり、ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか?もちろんすべて無料で読むことが可能です。
過去のケミカルタイムズ解説記事
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)
外部リンク
本記事は関東化学「Chemical Times」の記事を関東化学の許可を得て一部引用して作成しています。