パラジウム触媒存在下、有機金属反応剤と有機ハロゲン化物をくっつける「クロスカップリング反応」。
ノーベル化学賞の技術であり、多くの化学者に汎用さてれいる素晴らしい反応ですが、いまた改良することで発展の余地があります。
現在の研究の指標は大きく分けて、
- 有機金属反応剤を用いない
- 有機ハロゲン化物の代替品をつかう
- パラジウム触媒よりも安価で優れた触媒をつかう
となっています。
今回、関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」の特集「クロスカップリング反応」について紹介したいと思います。
ニッケル触媒直接カップリング反応の開発と機構解明研究
筆者らが執筆した記事です。下記に示す、私達が発見した反応は基質の制限はあるものの上述した1〜3を解決しています。つまり、
- ヘテロ芳香環(1,3-アゾール)そのものを用いる
- フェノール誘導体を用いる
- 安価なニッケル触媒を用いる
ということです。これは配位子に1,2-ビスジシクロヘキシルホスフィノエタン(dcype)を用いることが反応の鍵。この配位子以外(類縁体を除く)では全く反応が進行しません。
それ以外にもエステルを脱離基としたカップリング反応や、それらの詳細を反応機構解明研究と共に紹介しています。ぜひお読みください。
不活性シグマ結合の切断をともなうクロスカップリング反応
大阪大学の鳶巣守准教授による記事です。
特に上述した新しいカップリング反応の条件2に注目し、芳香族化合物にあるメトキシ基やアミノ基(アニリド)、シアノ基やフッ素機など、通常不活性なσ結合を遷移金属触媒で活性化することで、有機ハロゲン化物の代替品に使うことを目標にしています。また、主にニッケル触媒を用いていることから条件3にも合致します。
記事では、著者らが開発した反応の中で、特にアニソール(メトキシ基)、アニリド(アミノ基)をハロゲン化アリールの代替化合物としてもちいた研究にフォーカスして紹介しています。従来、このような官能基のみをデットエンドに終わっていた有機合成化学に新しい合成戦略を与える触媒反応だと思います。
工業化に優れた特性を示すクロスカップリング触媒
最後の記事は工業スケールの触媒・試薬販売会社であるUmicoreから。高い反応性が注目されている含窒素ヘテロ環カルベン(NHC)を配位子としてもつ、パラジウム触媒を紹介しています。同社はこれらの触媒を数グラムからー数十キロ、需要があれば数百キログラムスケールでも供給しています。研究室レベルでも最近売りだされたため、知っている方は多いことでしょう。
本記事ではそれら触媒の化学的性質から、鈴木ー宮浦クロスカップリングやケトンのα-アリール化反応への応用、選定方法などを紹介しています。上記2つに比べると基礎的な内容ですが、読みやすく勉強になると思います。
その他の記事
特集とは別に、メトキシベンジル部位とイミダゾリウム部位をもつイオン性液体の特徴と用途について紹介した、「3-{2-[4-(chloromethyl)-2,6-dimethoxyphenoxy]ethyl}-1-methylimidazolium hexafluorophosphateの物性と固定相としての検討」(東海大学理学部化学科 准教授)や、特集のキーワード解説記事があります。
もちろん全て無料ですので、時間があるときに読んでみてはいかがでしょうか。
過去のケミカルタイムズの記事
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)
外部リンク
本記事は関東化学「Chemical Times」の記事を関東化学の許可を得て一部引用して作成しています。