前回、前々回はヨーロッパの博士課程の概略と出願方法について紹介しました。今回は、日本から飛び立ちヨーロッパでの面接について紹介します。また、その後の合格後の手続きについてもまとめましたので、順に紹介していきます。
面接
メールによる書類審査に通過したら、次はinterviewに進みます。日本人の場合、スカイプを使用することもありますが、現地に行くことを強くお勧めします。
実際のところ、いくらたくさんの面接を行ってきた教授でも候補者と2-3時間接したところで、その人の性格や知識レベル、実験技術について知るには限界があります。スカイプ面接ならば尚更です。だからこそ、教授にとって直接会いに来てくれる熱意のある学生の方が、そうでない学生に比べて印象にも残りやすいですし、採用したいと思うのは自然な成り行きではないでしょうか。少々汚くシビアな言い方になりますが、教授はその面接一つでその学生のために4年分の人件費やその他研究資金(額にして2500万円を普通に超えます)の支出が可能か判断しなければなりません。教授は学生が奨学金を持ってこない限りは、このような大金を払うことになるわけですから、実際の実力と熱意を兼ね備えた優秀な学生を採用したいと考えるわけです。(余談ですが、私がMax Plankのあるラボを受けた際、同じ時期にアプライした日本人がいたようですが、面接に進めたのは現地に行く旨を伝えた私でした。そのラボは面接で失敗したので落ちましたが。。。)
一方で、あなたにとっても実際に海外に行ってみて研究室がどんなところかを見て、メンバーの前で研究発表し、ボスと一対一で話すのは良い経験になるのではないでしょうか。話が弾めばラボメイトとも友達にもなりますし、将来国際学会で会ったり、もしかしたらお互いPIになってコラボレーションすることになるかもしれません。
面接当日のスケジュール
- 教授と挨拶
- 研究発表、質疑応答
- 教授との面談
- (Senior scientist やPost docとの面談)
- 教授と挨拶
面接当日は研究室によっても異なりますが、まず教授と挨拶を兼ねた短い話しをした後に、グループミーティングで自分の研究概要を15分程度発表し、ディスカッションを15分程度行います。実際にこのプレゼンで問われるのは研究の量(修士の間しっかり実験していたかどうか)と実際に行った研究について理解しているかどうかなどです。続く15分程度のDiscussionの中では、どうしてその反応条件を用いたか、反応機構やその合成の意義などを質問される程度で、堂々として発表していれば問題ありません。質問者の英語が早すぎて分からない場合は、ゆっくりしゃべってもらえるように聞き返しても全く問題ありません。
研究発表の後、1時間程度、教授の面接を受けます。教授からの質問内容は
- これまでの研究に関すること、指導教授との関係性
- なぜ海外に出るのか、なぜヨーロッパに留学するのか
- 研究分野における一般的な知識に関する質問、化学に関する一般的な質問
- 研究室を選んだ理由、具体的にどんな研究がしたいのか
- 志願者の性格、現在の研究室でのキャラクター、目標とする人について
- 研究を開始したい時期
- 将来の夢、職業
- 他の研究室に応募しているのかについて
- 研究をする上で気をつけていること、研究者として必要なこと、実験に失敗した時どうリカバリーするかについて
- 趣味の話、食べ物の話
などです。また、応募者にも質問の機会が与えられるのでぜひ質問しましょう。一対一で教授と話せるビックチャンスです。これほどゆっくり話を聞ける機会は学会に行っても絶対にありません。論文に関すること、ラボの運営方針に関すること、group meetingについて、研究生活について、など聞きたいことは山のようにあるはずです。その後、PostdocやSenior scientistとの面談がある場合があります。最後に、教授に別れの挨拶をして終了です。全体で3-4時間程度です。
面接が終わったら、教授には当日のうちにお礼のメールを送ります。実際にラボを見てみてどんなところに関心をもったかなど、伝えておくとよいでしょう。印象が良ければ、一週間以内に受け入れのメールが届きます。教授も優秀な学生は喉から手が出るほど欲しがりますので、頑張ってアピールしてください!ヨーロッパの学生は、博士課程の応募の準備から決まるまで3ヶ月程度かけるようです。言語テストや奨学金の申請をする場合、1年を超えるでしょう(ちなみに私は7月8月の2ヶ月程度でした)。
これまで、ヨーロッパの博士課程とその出願方法について理解、関心を深めていただけたのではないでしょうか。ここからは、留学の準備について簡単に紹介します。
VISA、滞在許可証
スイスの滞在許可書。
スイスの場合、日本と二国間協定があるので留学にVISAは必要ありません。そのため、大使館に行って手続きする必要は一切ありません。
そのかわり、給料をもらって働くことになるので州政府(Kanton)から滞在許可を得る必要があります。この就労手続きは主に研究室の秘書さんがやってくれるので、指示に従ってなるべく早く申請書類を提出します。日本人の場合、手続きには本当に時間がかかるので少なくとも3ヶ月以上前から申請を出してください。近年、外国人の増加(スイスに住んでいる約25%が外国人!)で滞在許可の取得が難しくなってきていますが、今のところ研究者の場合はほぼ確実に許可が得られます。渡航が近くなると、州の外国人警察から滞在就労許可の確約書が送られてくるので、それを持参して渡航すればOKです。
入学手続き
研究を開始する日が決まったら、大学院の入学手続きを行います。滞在許可の申請は研究室の秘書さんが 行ってくれますが、こちらの大学の入学手続きは自分で行います。入学要項は英語版のものがあるので、大学のHPから見つけだし必要書類と併せて提出します。渡航前には卒業証明書などの公的な書類は全て余分に用意し、必ずPDF化してまとめておきましょう。
手続き書類を日本から送る際はEMSか、少なくとも普通郵便にしましょう(安いからといってレターパックなどで送った際、到着までに1ヶ月以上かかったことがあります)。
家探し
シェアフラット探しはこのwebsiteか、大学のmarktplatzへ
次に、家探しです。スイスの家探しはとても大変です。日本の比じゃありません。普通、スイスのチューリッヒやジュネーブ、ドイツではミュヘンなどの都市でアパートを借りる場合、一つの空きアパートの内覧に10-20人の応募が集まります。ヨーロッパの場合、その候補者の中から大家さんが一番気に入った人を選ぶのが一般的なので、現地の言語が話せない日本人がアパートを借りるのはとても大変です。アパートを借りるためにするべきことは、不動産屋のHPをこまめにチェックし、内覧日には必ずアパートに行き、応募書類をもらいます。もらったらすぐに応募書類に記入し、給与明細もしくはボスとの契約書、借金の無いことを証明する書類などと一緒に、郵便局に応募書類を出しに行きます。
残念なことですが、こういった住宅事情につけ込む詐欺師もいます(知り合いの先輩が詐欺に遭いました)。一番簡単な方法は、秘書さんに頼み大学の寮に応募することです。ただし、できるだけ早い時期に申請を出さないと、予約で埋まってしまうことが多いので注意が必要です。その他、知り合いの家や研究室のメンバーの家をしばらく間借りするのも方法の一つでしょう。研究室から卒業するメンバーや日本に帰る先輩の部屋を引き継ぐ方法もありますので、日本人コミュニティーを紹介してもらって聞いてみたりするのも良いかも知れません。
保険、予防接種
スイスの場合、国民皆保険なので、健康保険への加入が義務づけられています。申し込みはスイスに来てから3ヶ月以内、保険会社やパッケージは自由に選べ、年齢や住む都市、オプションによって料金が変わってきます。具体的にはcomparis.chなどでhome doctorモデルなどのパッケージを検索し、気に入った保険のプランを保険会社のHPで申し込むと言った具合です。このホームページ、日本でいうkakaku.comみたいな感じです。料金が気になるところですが、通常の健康保険はとても高いです。26歳の私の場合、Zurichで25万まで自腹、25万以上で1割負担、歯科治療カバー無しの一番保険料が安いBasicコースで月々250CHFかかっています。
蛇足ですが、保険関連の話はとても難しく、条件も日本と異なります。いかに重要なことを箇条書きにしておきます。
swiss careのような外国人留学生用の格安保険会社も存在します。しかし、これらの格安保険会社は住む都市によってその保険に入れるかどうか異なるので、留学先の留学生に聞いてみるのをお勧めします。(2019年現在、Zurchはカバーされていますので月々約60-80CHFで保険に入れます。)
歯科、眼科はとても高いので渡航前に歯科治療をして行くことをお勧めします。眼鏡もこちらで作るとかなりかかるので予備を作っていきましょう。
ドイツでは給料から天引きされるらしいです。休みの日には登山に行きたい方はライム病などの予防接種を日本でしておくと良いかもしれません。
事故保険(研究室内での事故だけでなく、旅行先での怪我などもカバーされる)の保険費用は大学側が給与から天引きする形で支払ってくれるので、民間の保険会社と改めて加入する必要がありません。全ての人に加入義務があるのは、風邪や疾患、妊娠等の治療に必要な医療費をカバーしてくれる健康保険です。日本とは扱いが異なっているので、注意が必要です。一般的に扶養家族がいる場合は、(こちらで働いている)本人は健康保険のみ保険会社と契約、被扶養者(子供など)は健康保険と自己保険を保険会社と契約することになります。
最後に
留学ははっきり言って大変です。でも私はそれに見合うだけの収穫もあると思います。留学自体もそうですが、それに至るプロセスを含め学べることは沢山あります。これからの時代、有機合成ができて、コミュニケーション能力があって、、、、では足りない、何かその他プラスアルファが求められる時代が来るかもしれません。実際のところ、留学して得たものが結果的にその後の人生に大きく寄与するプレミアになるかどうかは実際ケースバイケースで分かりません。しかし、留学先で研鑽を積めばその他大勢の同期とは異なる人材としての希少性を高めることができ、自分をブランディングすることができます。現在、多くの日本企業がグローバル事業をますます強化しており、そういった環境で働ける留学経験者の需要は増えるのでは無いかと考えられます。したがって、留学という変わった道を歩むのも悪くは無いのでは無いでしょうか?
これまでの留学記事にもありましたが、私も留学はそれほど気負うものではないと考えています。現在ではネットからたくさんの情報を得ることもできますし、留学経験者もたくさんいて、留学の難しさは間違い無く下がっています。そして、ある程度の学力と研究遂行能力さえあれば、ヨーロッパの大学院の博士課程に合格できます。学振が取れそうになかったら、ちょっと取っ付きにくいかもしれませんが、トライだけならしてみる価値はあるのではないでしょうか。学振に落ちて折角の社会人生活を借金を背負った状態からスタートするのは何とも忍びありません。(海外で日本の博士課程の状況を話すと本当に驚かれます。)留学により、将来の就職など不安定要素が増える可能性は否定できませんが、その不安定さを武器に自分をプラスの方向にもっていく努力をすれば得られる果実はより大きなものになるかもしれません。
あなたは一人ではないはずです。あなたもちょっと変わったことをする人や、一生懸命に頑張ってトライしている人は応援したくなりますよね? だから、あなたが留学したいなんてちょっと変わった?ことを言い出せば皆きっと応援してくれるはずです。私が留学しようとしていた時も、なんだかんだみんなが応援してくれました。海外で働いてみたい方、ブラックラボから脱出したい方、ボスといざこざを起こしてしまってどうしようもない方、学振はとれなさそうだけど経済的に自立したい方、変わった研究者人生を歩んでみたい方は、日本だけでなくヨーロッパ、アメリカも視野に入れてみてはいかがでしょうか。研究において、日本との大きな違いは日本語が通じないことだけです。学問に国境はありません。やりたい研究が国外にあるのなら、挑戦してみては?!
最後までおつきあいいただきありがとうございました。今後もヨーロッパ関連の記事を中心に書けたらと思いますのでよろしくお願いします。
2016.12.31 加筆修正
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