[スポンサーリンク]

一般的な話題

フラーレン:発見から30年

[スポンサーリンク]

C60フラーレンが発見されてから今年で30年。有機分子としてはその特徴的な構造から一般にも知れ渡る代表有機分子の1つになりました。

今回はフラーレン発見30周年を記念して、フラーレンの歴史とその応用例について簡単に述べたいと思います。

フラーレンについて

フラーレン黒鉛(グラファイト)ダイヤモンドと並ぶ炭素の同素体の一つです。以前にもこちらの記事にフラーレンの紹介がされていますので詳細は省きますが、今から30年前の1985年にクロトー(Harold Kroto)、 スモーリー(Richard Smalley)、カール(Robert Curl)の三氏によってフラーレンの実在が発見され、1996年にノーベル化学賞が与えられています。

C60フラーレンはご存知の通りサッカーボール型をしております。その特異的な形から核反応を早くするといった性質や、水素化触媒といった性質を持っています。加えてフラーレンは化学的・物理的性質を様々示しているため、フラーレンの中に水分子を入れたり、フラーレンを単官能基化したり、さらにフラーレンに化学修飾を施すことによって液状化させたりと、多くの研究者によってフラーレンに関するの研究が行われています。

近年では医薬、化粧品といったものから有機薄膜太陽電池のドナー材料に用いられるなどとフラーレンの特長を生かした様々な応用例が報告されています。

では医薬、化粧品への応用と有機薄膜太陽電池への応用についてもう少し見ていきましょう。

 

医薬、化粧品への応用

スクリーンショット 2015-04-03 18.57.58

左からFELICE TOWAKO COSMEDr. PRODUCTSFullacera製のフラーレン配合の化粧品の例

 

フラーレンはヒト免疫不全ウイルス(HIV)の特効薬としての利用が検討されていることはご存知でしょうか?HIVの増殖はHIVプロテアーゼという酵素が必要であり、その隙間にフラーレンがはまりHIVプロテアーゼの作用を阻害できるとのことです。[1]いまだ研究段階ですが、利用されるようなことがあれば面白い用途ですね。

また遺伝子の導入にフラーレンが有効であるとの研究結果もでています。遺伝子の導入には一般的にウイルスなどを運び屋として使う方法がありましたが、臓器障害などの安全性の問題がありました。しかしマウスでの実験によってC60フラーレンに4つのアミノ基をつけた水溶性のフラーレン(TPFE)を用いれば臓器障害なく遺伝子導入できるとの結果がでています。[2]

化粧品では、活性酸素やラジカルを消すことのできるフラーレンの性質を利用して美肌効果や肌の老化防止効果があり、美容液やローションなどに配合されているものも販売されています(効果の程はわかりません)。

 

有機薄膜太陽電池への応用

 

スクリーンショット 2015-04-03 19.58.25

フラーレンは電子材料としても非常に優秀な材料です。有機薄膜太陽電池はプラスの電荷(ホール)を取り出す有機電子供与体(ドナー)とマイナスの電荷(電子)を取り出す有機電子受容体(アクセプター)と呼ばれる材料を用います。そのアクセプターにフラーレン誘導体が使われています。アクセプターとしての利用価値が見出されたのは1992年でπ共役系高分子からC60フラーレンへの電子移動の速度が早いことが発見されてからです[3]

C60フラーレンは光を吸収する波長が300 nm ~ 400 nm程度の短波長領域で強く、その構造(球状)に起因したπ電子共役系様々な特徴から有機薄膜太陽電池のアクセプターとして利用されています。

現在ではC60フラーレンの他にC70フラーレンや溶液に溶かせるように開発したPCBMと呼ばれるフラーレン誘導体が使われ[4]、現在主流の単結晶シリコン太陽電池に代わる新たな太陽電池の開発に一役買っています。

 

最後に

C60フラーレンの実在が発見されてから30年。今日までこのように数々の研究が進められその特長から数多くの応用が検討されています。さらに合成化学によりフラーレン誘導体が数多く開発され改良が施されています。これからもフラーレンに目が離せません!

 

参考文献

  1. (a) Friedman, S. H.; DeCamp, D. L.; Sijbesma, R. P.; Srdanov, G.; Wudl, F.; Kenyon, G. L. J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 6506. DOI: 10.1021/ja00068a005. (b) Bakry, R.; Vallant, R. M.; Najam-ul-Haq, M.; Rainer, M.; Szabo, Z.; Huck, C. W.; Bonn, G. K. Int. J. Nanomedicine 2007, 2, 639.
  2. Maeda-Mamiya, R.; Noiri, E.; Isobe, H.; Nakanishi, W.; Okamoto, K.; Doi, K.; Sugaya, T.; Izumi, T.; Homma, T.; Nakamura, E. PNAS 2010, 107, 5339. DOI: 10.1073/pnas.0909223107
  3.  N. S. Saricifci, L. Smilowitz, A. J. Heeger, F. Wudl. Science. 1992, 27, 1474. DOI: 10. 1126/sience.258. 5087. 1474
  4. フラーレン・PCBM・修飾フラーレン/Sigma-Aldrich

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4320035259″ locale=”JP” title=”フラーレン・ナノチューブ・グラフェンの科学 ―ナノカーボンの世界― (基本法則から読み解く物理学最前線 5)”] [amazonjs asin=”4062571684″ locale=”JP” title=”サッカーボール型分子C60―フラーレンから五色の炭素まで (ブルーバックス)”] [amazonjs asin=”4781309372″ locale=”JP” title=”フラーレン誘導体・内包技術の最前線 (新材料・新素材シリーズ)”]

 

関連リンク

過去のフラーレンに関するchem-stationの記事はこちら

 

その他のリンクはこちら

以上4つは有機化学美術館からの記事。フラーレンに関する面白くてためになることがたくさん書かれています。

 

Avatar photo

レオ

投稿者の記事一覧

Ph.D取得を目指す大学院生。有機太陽電池の高効率を目指して日々研究中。趣味は一人で目的もなく電車に乗って旅行をすること。最近は研究以外の分野にも興味を持ち日々勉強中。

関連記事

  1. 研究テーマ変更奮闘記 – PhD留学(前編)
  2. アメリカ化学留学 ”入学審査 編”!
  3. ライトケミカル工業2025卒採用情報
  4. ハイフン(-)の使い方
  5. MEDCHEM NEWS 32-1号「機械学習とロボティックス特…
  6. ケムステV年末ライブ2024を開催します!
  7. 芳香族ニトロ化合物のクロスカップリング反応
  8. 水分子が見えた! ー原子間力顕微鏡を用いた水分子ネットワークの観…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 脱一酸化炭素を伴う分子間ラジカル連結反応とPd(0)触媒による8員環形成反応を鍵としたタキソールの収束的全合成
  2. 金属錯体化学を使って神経伝達物質受容体を選択的に活性化する
  3. 島津、たんぱく質分析で新技術・田中氏の技術応用
  4. ゾル-ゲル変化を自ら繰り返すアメーバのような液体の人工合成
  5. ウェルチ化学賞・受賞者一覧
  6. アルケンでCatellani反応: 長年解決されなかった副反応を制御した
  7. 石テレ賞、山下さんら3人
  8. シロアリに強い基礎用断熱材が登場
  9. 国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ
  10. 書物から学ぶ有機化学 3

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP