昨今のSTAP細胞から発生した「実験ノート問題」を覚えている方は多いことでしょう。意図せずして一般的にも実験ノートの大事さが伝わったと事件でした。科学者なら当然ですが、実験ノートは正確かつ適切に行なった実験に関して記さなければなりません。
一方で、近年のペーパーレス社会において、論文を読むのも各種機器分析もほぼPCをつかいます。ほとんどがデジタルデータというわけです。それに対して、実験ノートはどうでしょうか?企業においては電子ノート化がかなり以前から進んでいますが、大学の研究室はやはり紙ベースの実験ノート。アナログデータです。書いたほうが覚えるとかパラパラ見れるのがよいとかアナログのよいところはありますが、その議論はここではしないことにします。
有機合成の研究室の話をしましょう。報告書は何で書いていますか?実験ノートを参考にして、パソコンでChem-Drawがほとんどだと思います。測定したNMRのデータは?分析したGCやLCなどのデータは?すべてPCから紙に出力しています。
つまり、アナログからデジタルへ、デジタルからアナログへの変換を余儀なくされている部分なんですね。その時間は大変無駄です。それならばすべてアナログ!すべてデジタル!がいいと思いませんか?これから合わせるのが楽なのはデジタルであることは明白でしょう。
少し長くなりましたが、そういった理由から筆者は以前から電子ノートの導入を検討してきました。しかしながら希望した製品がなく、いつも断念せざるを得ませんでした。
筆者が希望した内容は、
- ウェブベースの実験ノート(WindowsでもMacでも使える、データの共有、サーバーを持たない)
- 場所を選ばず使える(いくつかの研究場所が離れた環境であるため)
- できるかぎり低価格(紙ベースのノートに比べ莫大の費用がかかっては大学の研究室では難しい)
- スマホなどでとった写真を活用できる(折角のIT機器を利用したい)
- データを一元管理できる(実験にかかわる測定データも一元管理したい)
です。いくつか重複している内容はありますが、これらの点を考慮してこれまで最適な電子実験ノートを探してきました。そして最近理想にはまだ届いていないですが、以上の点をすべて網羅できた電子実験ノートに出会ったのです。
それが今回紹介するAccelrys Notebook(アクセルリスノートブック)です。来年度からの研究室全体での利用を考慮し、一部を既に電子ノート化しています。
本記事では研究者として良い点も悪い点も考慮しながらこの新しい電子ノートをレポートしたいと思います。
Accelrys Notebookの特徴
正確に言うと電子実験ノートはElectronic Laboratory Notebook: ELNですので Accelrys ELNというらしいです。それは良いとして、これが他の電子ノートブックと異なる点は、サーバーがいらないことです。*つまり、独自のサーバーを持って管理するという手間と初期投資をなくすことができます。サーバー導入・管理はとっても大変ですよ。実際、筆者は学科のウェブ・ファイルサーバーを管理していますが、セキュリティ更新や不具合に追われて本当に辞めたいです。またサーバーを導入するには初期投資だけでも通常百万単位のお金がかかります。そういうわけで大学の一研究室で電子実験ノートを導入するのは資金的にも労力を考えてもほとんど不可能でした。
サーバーがいらないってどういうこと?と思うかもしれませんが、正確にいえば自分でサーバーを持たず、管理されているサーバーにアクセスして随時情報を更新していく、つまりクラウド型の電子実験ノートであるということです。アクセスはウェブから行います。ウェブということはもちろんWindowsだろうとMacだろうとタブレット端末だろうとインターネットさえつながれば使えます。場所も指定しないですよね。お値段は1ユーザーからで1年2万円(定価)。この価格が安いか高いかは議論となりますが、サーバー導入して運用することを考えたら破格だと思います。つまりこれだけで、上記の1-3の希望を少なからず満たしていることとなります。
では次に実際の使い方について簡単に説明します。
*サーバー型でも運用可能です。
クラウド型電子実験ノートの使い方例
1, ウェブブラウザで指定されたURLにアクセスします。ブラウザはほぼなんでも使えるようです。ちなみに筆者はMacOSXでSafariを使っています。アクセス先で与えられたIDとパスワードをいれると、実験ノートにログインできます。
2.ログインすると実験ノート編集画面になります。(一部使用しているところは機密事項のため白枠で隠しています)
実際にノートを書くには赤い矢印の指すStart new experimentからはじめます。
3. 実際にノートを書いてみる
操作は多少慣れが必要ですが、簡単です。構造式などを作成するものは最も使われている構造式描画ソフト「ChemBiodraw」を使っているので、報告書などにすべて転用できます。筆者の研究室は有機合成の研究室なので、有機合成の実験ノートの例を示します。この電子実験ノートにも分子量や構造式を書き、必要量を記入すると自動的に計算してくれる機能はついていますが、正直言って全く使えません。この機能のせいで一度は導入を断念しようと思いました。
ChembioDrawにも同様の機能がありますのでそれを使うことをオススメします。ご存知のかたはいると思いますが、StructureメニューのAnalyze Stoichiometry をクリックすれば下図のようなReactant とProductの分子量が表示されます。あとは実際に使う量や密度などを打ち込むだけです。それをコピーアンドペーストして実際には電子実験ノートに直接貼り付けています。また下図のようにTLCなども貼り付けられます。もちろん反応の様子や色などの情報を写真として収めてもよいでしょう。反応終了後の機器分析データもPDFファイル形式で添付することができます。つまりデータの一元管理がここでできることとなります。
4. 保存、サブミット
実際には随時保存されているので、万が一編集途中で編集ができなくなっても復帰可能です。編集が完了したらサブミット(提出)します。サブミットすると編集が効かなくなる、つまり完全保存されます。オプションでON, OFFが可能ですが、サブミット後、管理者(研究室なら先生)に電子サインをもらうこともできます。もっといえばしっかり書いていなければコメントを付けてリジェクト(拒否)もできるため、ノートの書き方もしっかり指導可能です。
スマートフォンやタブレットなどとの連携
電子ノートの一番の欠点は、アナログとの連携がむずかしいところです。上述したように機器分析などはすべてデジタル化しているので問題ないでしょう。ただ実験はどうでしょうか。試薬を測って滴下して、混ぜて、後処理して…すべてアナログです。つまり、例えば何グラム測ればいいんだっけ?様子を実験ノートに書きたいという際にPCまで戻らなければならないのです。そのために、折角電子ノートに記載した内容を印刷してもっていきますか?そして後に入力する…とてもめんどくさいですよね。
それを簡単にするのがスマートフォンやタブレット端末との連携です。この電子ノートは専用のアプリがあるため、そこからも電子ノートに簡単にアクセス可能です。またクラウド型であるため、電子ノートに記載した内容はサーバーからすぐに各種端末に都度送られ更新されます。つまりは、例えばスマートフォンさえ持って電子ノートにメモしておけばそこから簡単に詳細をみることができるのです。逆にいえば、電子ノートにスマートフォンからその場で出力することもできます。何時何分に◯◯を入れた、反応の色は◯◯であったなどをメモとして記載しておけます。さらに、上図のTLCの写真などはスマートフォンから直接送信したものです。次にPCから電子ノートにアクセスした時にはすでにTLCの写真がノートに入っています。とっても便利ですよね。以上使い方例とあわせて、上述した4-5の希望をかなえてくれました。
その他の良い点、悪い点
その他の良い点や悪い点を書きなぐります。
◯ プロジェクトやユーザごとで管理できるため、実験ノートの共有・非共有も簡単
◯ テキスト検索・化合物検索も可能
◯ 編集できないようにロックされるため、実験記録の保管や知的財産の保護も問題ない
◯ 1ユーザーから開始することができ、申込み後、数日で使用を開始できる
◯ 実験の状況を常に確認できる(実験者にとっては☓?)
△ 安価だがもう少し安くなるとなおよい。
△ 情報漏洩は大丈夫か?
☓ クラウドであるためスピードが遅い。人気がでてユーザーが増えてくると心配
☓ 紙ベースの実験ノートのようにパラパラと検索できない
☓ 時々ノートやアプリが不安定になる。アプリの利用がiOSのみでアンドロイド版がない。アプリからは文字データは見れるが構造式はみれない
☓ 当たり前だが、インターネットに接続していないとアクセス出来ない
ぜひご体験を!
今回、現在導入を検討しているクラウド版電子ノートAccelrys Nobtebookについて紹介しましたが、実はかなり長い月日紆余曲折有り、当初は紹介できる製品ではありませんでした。しかし、多くの要望と改善をお願いしてようやくここまでいきつきました。もちろん筆者らだけでなく現在のユーザーからの要望もあったと思いますが、ユーザーの要望に真摯に対応してくれたというのも現在の評価に至っています。
簡単に無料デモが行えるのでぜひクラウド型の電子ノートを体験してみてはいかがでしょうか。詳細はこちら!
メーカー:ダッソー・システムズ・バイオビア株式会社 Dassault Systems Biovia K.K. (最近社名が変更になったようです)
住所:〒141-6020 東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark Tower 21F
電話:03-4321-3900 (代表)/ 0120-712655 (技術サポート)
E-メール info-japan@accelrys.com
お問いわせ:ウェブからでも可能です。こちら!