[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Open Babel を使ってみよう~ケモインフォマティクス入門~

[スポンサーリンク]

こんにちは、アセトアミノフェンといいます。今回初投稿です。これからどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今回は Open Babel について書いてみることにしました。

 

Open Babel ってなに?

Open Babel とは、主に化学構造を保持しているさまざまなファイルフォーマットを変換するシステムです。Sourceforge からフリーで配布されています。分子のモデリングというよりは“分子の情報学”(ケモインフォマティクスなどともいわれます)の目的で使われるシステムで、化学構造のライブラリ、構造が類似しているかどうかの判定などにも役立つアルゴリズムです。

入出力ファイル形式は相当数あり、おそらく化学構造を表すために用いられるほとんどのフォーマットをカバーしています。主なものでは

  • .mol (MDL MOL format):化学構造を記述する標準的なフォーマットで、結合表 (Connection Table) という考えに基づく行列表記法の1つ
  • .cml (Chemical Markup Language):化学情報をXMLと同じように扱おうという言語
  • .cdx (ChemDraw binary format):化学系で最もメジャーな構造式描画ソフトの標準出力形式
  • .smi (SMILES files):Simplified Molecular Input Line Entry Specificationの略で、線形表記法の1つ

といったところでしょうか。フォーマットの詳しい日本語リソースとしては、例えば

などがあります。

 

そんな Open Babel はこんな時に役立ちます

  • ChemDraw 形式のファイル(拡張子.cdx)をもらったが、手元に ChemDraw がなくて開けない!
  • いちいちGUI(グラフィカルユーザインタフェース)で開くのではなく、一発でコマンド処理したい!

もちろん、化学構造式を描くためのフリーソフトとして ChemSketch (Windows), Accelrys Draw (Windows), Marvin Sketch (Windows/Mac/Linux) などがあります。これらは独自フォーマットのほかに、一般的な .mol や .cdx にも対応しています。しかし、いずれも商用ソフトの無料部分を活用することになるので、いくぶん制約がかかってしまいます。

それに対し、Open Babel はオープンソースで、世界中の有志が開発に参加し、常に不具合を修正したり機能を追加したりすることによって維持されています。つまり、内部の処理が公開されているということで、興味があればソフトが内部でどういうことをやっているのか直接見ることができます。また、OS によらずどこでも利用でき、そのうえコマンドライン(Windows のコマンドプロンプトや Mac のターミナル)から操作する機能もあるので、たくさんあるファイルをいちいち直感的に操作するのではなく、まとめて素早く処理したい場合にも役立ちます。

 

ダウンロードとインストール

まずは、Open Babel をインストールしましょう。Open Babel の Wiki ページに行って、自分のOSにあったインストーラをダウンロードしましょう。ここでは私はWindows 用のインストーラの場合で説明します。

最新のインストーラは「OpenBabel2.3.2a_Windows_Installer.exe」でした。これをダウンロードして起動すると、こんな画面が出てきます。

 

OpenBabel-inst01

OpenBabelセットアップウィザード

 

Next をクリックするとライセンス使用条件が現れるので、読んだら I Agree をクリック。あとは数回 Next をクリックするだけで、簡単にインストールが終了します。

完了したらスタートメニューに追加されるはずなので、起動してみましょう。左側がインプット、右側がアウトプットで、中央で変換処理の調節になっています。たくさんの入力フォーマットがあるのが分かると思います。

 

OpenBabelGUI

起動するとこんな画面が現れる

 

使ってみよう

では、いよいよ Open Babel を使ってみましょう。

最初は特に中央をいじらずに、入力と出力だけ指定してみましょう。私のペンネームであるアセトアミノフェンを例に説明します。今回は自力で構造式を描かずに、ChemSpider からとってきたものを使ってみます。みなさんも検索窓から acetaminophen と入力して検索してみてください。別名の Paracetamol がヒットしますので、Save をクリックして MOL 形式でダウンロードしましょう。ここでは分かりやすく acetaminophen.mol と名前を変更しておきます。

 

ChemSpider

ChemSpiderから構造式を取得

 

はじめに一般的な PNG という画像形式に変換してみます。Open Babelの画面左側でINPUT FORMATの下向き矢印から「mol — MDL MOL format」を指定し、そのすぐ下にある細い入力エリアの右についている「…」をクリックして今ダウンロードしたacetaminophen.molを探します。右側でOUTPUT FORMATを「png — PNG 2D depiction」を指定し、保存先を指定します。

 

OpenBabel-MOLtoPNG

PNGに変換

 

Convert をクリックすると、ちゃんとPNG画像が出力されます。

acetaminophen

アセトアミノフェンの構造式

 

もう一つ試してみましょう。今度は SMILES 表記法から MOL 形式への変換をやってみます。先ほどの ChemSpider のページには「SMILES and InChIs」という項目がありました。ここのSMILES表記を見ると、アセトアミノフェンは

CC(=O)Nc1ccc(cc1)O

と書かれています。これをコピーし、今度は Open Babel の画面左の大きな入力エリアに貼り付けましょう。Input below にチェックを入れると入力や貼り付けが可能になります。先ほどの方法をまねて、右側で出力を「mol — MDL MOL format」に指定し、保存先を決めたら Convert をクリックします。

 

OpenBabel-SMItoMOL

SMILES 表記法から MOL 形式への変換

 

出てきたMOLファイルをChemSketchで開いてみます。あれ、なんか変ですね。コンパクトになってしまいました。

 

acetaminophen-01

ChemSketchで開く

 

こんなときは、Clean Structureをクリックします(図の矢印)。ちゃんとアセトアミノフェンの構造式になっていました。

 

acetaminophen-02

Clean Structureをクリックすると正しい構造式が得られる

 

終わりに

いかがだったでしょうか? 今回はファイル変換しか行いませんでしたが、Open Babel はもっと高機能です。興味のある方は関連記事を見てください。

初めての投稿で、慣れない部分もありましたが、今後ともよろしくお願いいたします。

関連情報:今回の著者・アセトアミノフェンは「はてなブログ」で個人ブログを運営しております。今回はケムステの化学者のつぶやきと連動して Open Babel 特集を組みました。こちらでは、Open Babel を GUI ではなくコマンドで使用する例を紹介しておりますので、併せてよろしくお願いいたします。

 

関連記事

 

関連書籍

  • [amazonjs asin=”4621075527″ locale=”JP” title=”ケモインフォマティックス―予測と設計のための化学情報学”]
  • [amazonjs asin=”4062744074″ locale=”JP” title=”ChemSketchで書く簡単化学レポート―最新化学レポート作成ソフトの使い方入門 (ブルーバックスCD-ROM)”]
Avatar photo

アセトアミノフェン

投稿者の記事一覧

工学(修士);専門は応用化学・生物物理学。会社員です。

関連記事

  1. 分取薄層クロマトグラフィー PTLC (Preparative …
  2. ケムステ主催バーチャルシンポジウム「最先端有機化学」を開催します…
  3. 学生に化学論文の書き方をどうやって教えるか?
  4. 荒木飛呂彦のイラストがCell誌の表紙を飾る
  5. エステルからエステルをつくる
  6. ケミストリ・ソングス【Part 2】
  7. 2011年イグノーベル賞決定!「わさび警報装置」
  8. 「決断できる人」がしている3つのこと

注目情報

ピックアップ記事

  1. 対称性に着目したモデルに基づいてナノ物質の周期律を発見
  2. 林 雄二郎博士に聞く ポットエコノミーの化学
  3. 【速報】2010年ノーベル生理医学賞決定ーケンブリッジ大のエドワード氏
  4. 化学療法と抗がん剤の併用で進行期非扁平非小細胞肺癌の生存期間延長
  5. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(5年目)(留学中編)
  6. 空気下、室温で実施可能な超高速メカノケミカルバーチ還元反応の開発
  7. カプサイシンβ-D-グルコピラノシド : Capsaicin beta-D-Glucopyranoside
  8. 秋の褒章2013-化学
  9. タミフルの効果
  10. 日本酸素記念館

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー