先日、東京御茶ノ水にある日本化学会を訪問しました。日本化学会玉尾皓平会長と渡辺芳人春季年会実行委員長(名古屋大)との会談のインタビュアーを務めるためです。日本化学会のHPにも掲載されています。主な対談の目的ははじめて開催される名古屋大学での春季年会、年会の産業界へのアピールでしたが、それだけではいまいち面白く無いので、日本化学会の会員として、さらにはケムステ代表ならではの突っ込んだ質問をさせていただきました。総じて感じたのがお二人ともとっても考えがフレキシブルで楽しく、あっというまの2時間半でした。せっかくですので、一部紹介させていただきたいと思います。
はじめての名古屋春季年会
毎年3月に行われる日本化学会年会。1年に一回日本の化学研究を行っている学生、研究者が一度に集まる大変有意義な機会です。先日発表申し込みが締め切られましたが、講演数6000超、参加人数8000名を超える化学分野でもっとも大きな学会に位置付けられています。通常はこれまで、3年ごとに関東地域、関東地域、関西地域の繰り返しで行われてきました。今年は、開催予定であった神奈川大学が都合により使えなくなったことにより、渡辺芳人名古屋大理事(当時日本化学会筆頭副会長)が「名古屋でやりましょう」といったことで名古屋大学での開催が決定しました。
これまでの日本化学会春季年会の歴史の中で名古屋大学で行われたことはありません。それだけでなく、そもそも国立大学ではこれだけの発表場を確保できるスペースがないため、私立大学中心で行われてきました。すなわち緊急的な措置であるにせよ、数十年ぶりの国立立大学かつはじめての名古屋での日本化学会春季年会開催となるわけです。
そういったところで、ケムステも全面的に応援することを約束しました。今回は、毎年行っている日本化学会の年会キャンペーン(関連記事参照)を倍にすることを狙っています。名古屋お食事マップ(実は大学まわりはあんまりないんですが)を含めたリーフレットも作成したいと考えています。玉尾会長と渡辺先生から要請があったのが、どんな人でも集まれるイブニングミキサーの開催。ちょっと大変ですが、現在計画しています。また詳細をお話させていただければと思います。
産業界に向けた春季年会のアピール
産業界に向けた年会へのアピールを主題に日本化学会の春季年会の位置付けと、産業界にとって年会参加のメリット、ATP企画などのご質問をさせていただきました。こちらに関しては、化学工業日報に近日中に公開予定です。
玉尾会長、渡辺先生に問うー日本化学会の国際化と活性化
折角なんでトップのお二人に日本化学会の活動や今後について聞いてきました。ケムステ代表ならではの(化学者としてはなかなかいえない)突っ込んだ質問もしてきたつもりです(残念ながら一部しか書ける内容はありませんが)。特に最近皆さんが気になっているところを一部紹介したいと思います(内容は記憶をたどり、わかりやすいように編集しています)。その他は第94春季年会プログラムに掲載される予定です。
日本化学会年会について
山口: 現在の講演会場が細分化された形で異分野交流(学会後の交流以外で)はうまくできるのでしょうか?
玉尾: 昔に比べて細分化されて、小さい分野で集まってしまっているのは事実ですが、プログラム構成上なかなかしかたがないことです。同じ内容を続けて聞けたほうがいですし。それ以外の特別枠で広く化学を捉えることができるようなプログラムを用意しようと考えています。例えば、秋に行ったCSJ化学フェスタでは新学術領域全領域に参加している先生方にお話をいただけるプログラムを用意しました。参加すればすべての新学術領域の研究を聞くことができます。細分化された特化したプログラムと境界を超えたようなプログラムを日本化学会の年会では用意できればと思っています。
山口:それは最新の研究をまとめてきけるのでとっても良い企画ですね。
山口?:話は変わって、年会の英語化、今年は英語で発表することが推奨されていますが、それは国際化になりますか?多分、今の学生は7分ぐらいの英語発表はレディの状態ですが、それ以外のインフラが全く整っていないのでは?むしろ、海外から参加するメリットはあるのですか?
玉尾?:そのとおりでそこをしっかりしないと自己満足になります。
日本化学会 :申込画面に関しては今年新しくしたので、日本語で様子をみて、来年から英語でも講演申し込みできるようにしたいと思います(日本化化学会)。
渡辺?:英語化に関しては将来的に講演はすべて英語にする予定です。現在の口頭発表中心のプログラムをもう少しポスター発表に移行したいと考えています。ポスター発表ならば英語でも説明もしやすいですし、会場確保の問題も解消できる可能性があります。
玉尾:海外からの参加者がうまく交流ができるようにランチョンミキサーやイブニングミキサーなどを英語の特別シンポジウムの間に挟めたらよいのですが。
日本化学会ウェブについて
山口:?日本化学会の係るウェブ環境についてどうお考えですか?ホームページをどのように利用しようと考えているのでしょうか。
日本化学会: 最近ホームページを新しくしました。最新のニュースとイベント等を紹介しています。なにかいいアイデアはありますでしょうか。
山口:化学と工業を毎月発表していますよね。特集や様々なテーマで査読付きでとっても良い記事が掲載されています。ですが、残念がら若い世代にはあまり読まれていません。日本化学会が著作権を所有しているのですから、この一部をHTMLでおこして、公開したらいかがですか?専門の人を1人パートタイムで雇えば事足りますよ。
日本化学会:これは会員に発行しているもので、それをウェブで無料公開するというのはなかなか敷居が高いです。今後検討してみます。
山口:雑誌をなくすというわけではなくて、一部を定期的(継続的)に公開するということです。継続することが重要ですし、その分野の専門の化学者がかいた記事ですから、信頼性も非常に高く、ウェブのコンテンツとしてばっちりであると思います。
日本化学会:今後ぜひ検討していきたいと思います。
山口:英語のHPに関してももう少し充実させましょう。少なくとも日本化学会の学会賞が誰がとったかぐらいは写真付きで紹介すべきです。各ジャーナルにニュースとして配信しても良いと思います。
日本の論文誌について
山口:日本の論文誌の強化について具体的な方策はあるのでしょうか?IFをあげたいのならば、日本化学会各賞(進歩賞以外)に数報の投稿を規定として促すことや、海外から年会に特別講演でよんだ人に、レクチャーシップアワードをあげるかわりに、アカウントでも書いてもらえばいいのではないでしょうか。
玉尾:日本の論文誌への投稿を学会賞の条件とするのは、一度話題になったことがありますが、相応しくないということで流れました。今回、それに関しては秘策を持っています。科研費「研究成果公開促進費」に「国際情報発信強化」が新設され、わが国の学会発リーディングジャーナルを育てるのが主目的として化学会から申請したBCSJとCLの強化策が幸い採択されました。今後5年間、強化策を実行に移します。秘策としては◯◯◯….(秘密です)。このために全国の研究者を行脚して回っています。
山口:それ(秘策に対して)は確かに素晴らしいですね!今までなしのつぶてだったこの懸案が、解決されそうな気がします。大変期待しています。
年会の思い出について
山口:先生方のはじめての年会の思い出を教えて下さい。失敗談だとか苦労した点だとか。
渡辺:あんまり覚えてないですけど、いまでも昔でも同じで、はじめての学会発表というのはなかなか緊張するもので、質問などには答えれなかったですね。私達のときはいまのPCなんてもちろんOHPシートもなく、ブルー字に白色の文字で書く、ブルースライドという方法でつくっていました。写真屋に注文すると高いので、自分で現像するんですよ。大変でしたが、研究室総員してやる作業で楽しかった思い出があります。
玉尾:私達のときはもっと前で、大きな模造紙に書いて、それを棒でつるしてやっていました。上部を別の紙でとめて、次のページに進むときは、引っ張るとその部分が破れるようになってるんですよ。色々と思い出がありますが、様々な学外の友人をつくれたのが一番の思い出ですね。
おわりに
ここには書ききれない(書けない)ことばかりですので、雑多な内容になってしまいましたが、冒頭にも記載したとおり、玉尾会長、渡辺先生ともに日本化学会をよりよくしたいという気持ちが強くかつフレキシブルですので、いろいろと意見を取り入れたいようでした。面白い考えがあるのならばぜひ提言してみてください。さて、新しい場所、企画と色々と詰まった2014年の日本化学会年会。ぜひ楽しみにしていてください!