~4月某日、ある有機合成系研究室の一場面~
院生A: と、いう様に分液操作で後処理をしたら硫マグで乾燥させるんだ
4年配属生B: なるほど、この後はどうするんですか?、先輩
院生A: 入れた乾燥材をろ過してエバポだね
4年配属生B: 抽出溶媒を除く訳ですね
院生A:そ う、そしてカラム精製だ。
4年配属生B: ありがとうございます、やり方は?
院生A: 移動相はRf 値-に調製して、精製しようとする量の-倍のシリカゲルを適当なカラム管に詰める
4年配属生B: はい
院生A: 表面を荒らさない様に、粗生成物をトップに乗せて移動溶媒を注ぎ、試験管に分取する
4年配属生B: カラム径選択の基準は?どの位の量ずつ分取して何本目に出て来るんですか? 溶媒はどの位用意するんですか?移動相の流速は?詰め方は?
院生A: ウデと経験だね…
4年配属生B: そうなんですか…仕込んだ反応の時みたいに参考文献とかないんですか?
院生A: う~~ん、この部屋のやり方はこれだから
4年配属生B: ハイ、がんばります!!
はい、どうも、Kです。7月に入り4年生も研究室生活になじみつつありますが、先日まで上の様な光景が目の前で繰り広げられていました。そこで備忘録も兼ね、主に合成実験で用いるカラムクロマトグラフィーについてまとめてみたいと思います。
カラムクロマトグラフィーとは?
文献中に初めて記載されたカラムクロマトグラフィーは、1903年 Michael Tswett によるものです。炭酸カルシウムを固定相とし、植物色素を分離したことが始まりでした1)。その後 1978年 Clark Stillにより画期的な”フラッシュクロマトグラフィー”2)が報告され、これ以後多くの論文実験項に登場することとなります。
シリカゲルカラムクロマトグラフィー基本事項まとめ
1. 充填法: 湿式法と乾式法
湿式法・・・固定相に移動相を加えた懸濁液(スラリー)をカラム管へ加え、余分な移動相を流出させ充填する。
乾式法・・・カラム管へ固定相を充填後、移動相を通し充填する。
カラム管へシリカゲルなどの固定相を充填するには湿式法と乾式法の2種類がありますが”きっちり”と詰める事さえ出来れば分離能は変わりません。
2.分離能と移動相極性
分離能は同じ固定相を持ったTLCと一致し、展開距離が長くなれば分離能(⊿Rf)は良くなります。つまり固定相高さを長くすれば分離は良くなります。一方、移動相極性は低ければゆっくりと流出することとなります2)。
3. オープンカラムとフラッシュクロマトグラフィー
オープンカラムは重力により、フラッシュクロマトグラフィーは送風ポンプ3) を用い移動相を押し出したものの名称です。
4.経験?理論?
最初のやりとりの様に、巧拙を決めるのは経験なのでしょうか?個人的には経験、理論どちらも必要だと感じています。
理論としてStillのフラッシュクロマトグラフィー メソッド2)を紹介します。
- TLC上で欲しいスポットがRf= 0.35~0.45となる展開溶媒を探す
- 一覧を参考に、カラム管のサイズを選び必要な溶媒量を用意する(ref: 2a, Table 1 を改変)
- 固定相(シリカゲル)高さが15 cmとなる様に乾式法で詰め、移動相全量を1~2度通し湿らせる
- 粗生成物を移動相、若しくは低極性溶媒へ溶かし下のコックを開け、固定相トップへ吸着させる
- 表面を荒らさない様に移動相を加え規定量ずつ分取する
- 規定量を20本分取したら6~20本目をTLCチェック、20本以後も流出が続いていた場合は続けて分取する。
- 欲しいスポットを合わせ減圧留去する。
5.その他 ”主観的”感想
- Rf= 0.45の時、8±2本目辺りから、Rf= 0.35の時13±2本目辺りから目的とするスポットが流出する。
- ⊿Rf= ~0.05の時は固定相高さを22 cmとし、Rf= 0.3とすると25±2本目辺りから目的とするスポットが流出する (一部重複スポットが出る場合もある)。
- 原文では”5 cm / min” 程度の早さで移動相を流す”とあるが、速度を上げても実質的な分離能は変わらない。
- フラッシュクロマトグラフィーでは加圧で密に詰まってゆくので湿式法では詰まり過ぎ、移動相が流れにくくなる傾向となる、乾式と相性が良い。
*上の表をプリントアウトし実験台に貼り付けておくと便利。
Aldrich 社製フラッシュクロマトグラフィー器具概要図
(*ジョイント接続器具を推奨、加圧時、一般的なスリ接続では移動相が吹き出す場合があり危険です。)
送風ポンプ3)と専用器具4)を併用した場合、熟練者ならグラムスケールの精製も1時間半前後と短時間で精製可能、初心者でも最小限の溶媒量で、効率的に再現性良く進める事ができます。もちろん、一般的なオープンカラムや2連球・金魚ポンプ等を併用する場合においても適用可能なメソッドです。
実験ノートに外径(Φ)、移動相組成・比率、分取何本目より目的物流出を認めたか、を記載しておけばスケールアップ時にもよい目安となります。
関連動画
参考文献
- Sigma – Aldrich PDF資料:Flash Chromatography Method Development
- (a) ‘Rapid chromatographic technique for preparative separations with moderate resolution’ W. Clark Still, Michael Kahn, Abhijit Mitra , J. Org. Chem., 1978, 43, 2923 doi:10.1021/jo00408a041 (b) ‘Improvement in Flash Chromatography’ N. Yoshinori et al., Bull. Chem. Soc. Jpn.,1988, 61, 1815. doi:10.1246/bcsj.61.1815
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