こちらのケムステニュースでもお伝えした通り、今月初旬に待望の化学構造式描画アプリChemDraw及びChem3DのiOS版がリリースされました。構造式描画アプリは今まで幾つかありましたが、やはりデスクトップPCで慣れしたしんだソフトの方がスムーズな使用感やPCとの連携も期待できるので待ち望んでいた方も多いのではないでしょうか。
しかし、残念ながら未だに日本ではダウンロードする事ができず、待ちぼうけをくらっている状態です。いずれはリリースされるとは思いますが、どうにもがまできなかったので、米国から入手しましたので人柱となるべく、週末の宿題代わりにレビューをポストしたいと思います。
[追記] 現在は既に日本版itune storeでもダウンロード可能です。
さて筆者はMacユーザーであります。しかもMacユーザーになったのは学生時代にChemDrawを使う必要があったためです。当時はChemDrawはMacのキラーソフト、すなわちWindows版よりも先行していたのでした。ですので、かれこれ数十年のChemDrawユーザーで現在でも愛用しているということをあらかじめお断りしておきます。
さて、まずどうやってこのアプリを入手するかですが、iTunesストアの米国版にアクセスして米国のアカウントを作ればいいという事で、なんて事はないですね(?)。
必要なものは米国で作ったクレジットカード、そして米国の住所です。その時点でハードルが上がりましたが、回避策は幾つか用意されているもので、クレジットカードがなくても、iTunesカードの北米版を入手すれば事足ります。オークションなどで楽に入手できます。住所に関しては、まあググってみて下さい。ちょっとグレーですが何とかなっちゃいます。筆者は米国在住なのでこの点は大丈夫です。
米国iTunes Store
さて無事インストールが済んだら起動してみます。ちょっとしたチュートリアルもありますが、ほとんどのの方はPC版のChemDrawをご利用のことと思いますので、お馴染みの操作で作図できます。右側メニューは上から、選択ツール、環描画、線描画、元素ラベル、官能基ショートカット、電荷、矢印、図形の各ツールとなっています。PC版のようなキーボードショートカットはありませんが、自由に構造式描画が可能です。他の構造式描画アプリと比べてレスポンスが軽く、サクサク描けます。また、PCではあり得なかった機能としては構造式をピンチで拡大、縮小ができます。残念ながら回転はできませんが、構造式を選択したあとPC版と同じ操作で回転はできます。
ファイルの保存もできるぞ!
次に上部メニューを順番に紹介しますと、一番左には立体化学表示のオプションがあり、いざという時便利です。左から二番目はファイルの項目となっており、作成したファイルの保存も可能です。またサンプルの構造式があるのでそれらをグリグリいじることもできます。
構造式の解析もできるぞ!
左から三番目はファイルの転送です。メールにcdxmlファイルとして添付して送ることや、Frick-to-Shareという機能でファイルのやり取りもできます。
左から四番目、五番目はそれぞれ、コピー、ペーストです。
残りは左から、undo、redo、構造式のクリーンアップ、構造式の分子式などのデータ(残念ながらMSは小数点以下二桁です)、そしてカラーの指定となっています。
いかがでしょうか?PC版で使用している機能がほぼ揃っていますね。構造式を描くだけなら必要最低限だと思います。
それではここからは筆者の気付いたことを。
描画のセッティングは、デフォルトでFixed length、Fixed angleとなっており、変更はできません。これはいいのですが、フォーマット(drawing settings)を変更する事ができませんので線の長さや太さなどを変更できません。はい、この時点で仕事には役に立ちません。ACSのスタイルにしたりできませんから。そして致命的な事に、atom label以外の文字入力ができません。試薬を記入したスキームを書いたりできないです。
PCとの連携機能としてはDropBoxに保管されているcdx、cdxmlファイルを開くことができるようになっています。また、iTunesを使ってファイルのやりとりもできます。これで一瞬期待が高まったのですが、作成した際のdrawing settingsは破棄されますし、atom label以外のテキストは編集できません(移動と削除は可能)。
また、先ほどコピー、ペーストがあると書きましたが、なんとコピーしてもクリップボードに転送されません。よって他のアプリに描いた構造式を貼り付けることができません。百歩譲ってカメラロールにjpgでもpngでもいいから転送してくれないかと思っても、できません。あえて言おう、ゴミアプリであると。
以上、待望のアプリのリリースで仕事が捗ると期待していたのに見事裏切られました。これだったらChemDoodleやElementalの方がマシな機能があります。同時リリースのChem3Dもデフォルトで登録されている構造しかいじれなくて、自由に構造を作れないなど大きく失望させられる内容でした。ChemDrawは9.9ドル、Chem3Dに至っては無料となんと太っ腹なんだと思いましたが、何の事は無い安物買いのなんとやらに他なりません。
筆者としては出先でKeynoteのプレゼンテーション用の構造式をちゃちゃっと直したり、それこそケムステの記事作成に役立てたりしたかったですが、どれもかないません。現状、このアプリのターゲットがどのような層なのかさっぱりわかりません。少なくとも画像ファイルとしての書き出し機能が無いと何にも使えません。あえて考えるとしたら、PC版で修正する事を前提とした下書きを作成することぐらいでしょうか。
文句ばかりになってしまいましたが、これが長年のChemDrawユーザーとしての率直な感想です。ないない尽くしのアプリですがFAQを先に読んでいればここに書いてある事はあらかじめわかりましたね。
アップデートで様々な機能が追加されて行くことを切に願っております。FAQの回答でこのバージョンではできないみたいな記載があるので、開発は継続してくれていると信じます。
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