引き続き、学振申請書を論理的に、かつ分かりやすく仕上げるための文章校正ポイントを紹介します。(前編はこちら)
7.強調表記は絞って上手く使おう!
図については、目立つ赤文字、背景塗りつぶしなら黄色か水色での強調が良いでしょう。強調ポイントがぼけるので、色数を使いすぎることはNGです。本当に大事な箇所だけに絞って使いましょう。
アンダーライン、太字、フォント変更を適宜組み合わせることで、テキストにもメリハリを付けることができます。明朝体でテキストを書く人が多いと思いますが、明朝太字で強調してしまうと、印刷字に地の文と区別がつきにくくなります。細かい工夫ですが、強調部分だけゴシック体に変えてみると良いですよ! PC画面上ではさほど違いませんが、印刷時にその効果がよく分かりますよ。
これも「強調部分だけを拾い読みしたら、いいたいことが伝わった!」という強調になっているのが理想といえます。
8.比較対象を明記しよう!可能な限り定量比較で!
過去の事例との比較を述べることも、申請書上では良くあります。
数値での比較をすることで、思い込みのニュアンスを排することができ、客観性が生まれます。単に「より優れている」とだけ書くよりは、例えば
「●●と比べて△△の点でXX%の優位性が見込める」
といった風に定量的に書くほうがベターです。しっかりした調査に基づく練られた申請書であることも印象づけられます。文章の説得力を増すための鉄則です。
9.「程度副詞」は必要ない!
まずは以下の2つの文を比較してみてください。
① 本バイオイメージング技術の進歩は当領域の発展にきわめて効果的だ。
② 本バイオイメージング技術の進歩は当領域の発展に効果的だ。
おや・・・言いたいことは変わらないような・・・?そもそも、何をもって「きわめて」なんでしょうか。よく分かりません。
程度副詞(「きわめて」「大変」「とても」etc)は、文章意図をロジカルに伝えるうえで本質的に必要のないものです。本当に多くの人が沢山使ってきますが、使いたくなる理由の99%は「自分勝手な思い込み」だと筆者は思っています。もっと言えば、読者と共感できる余地の少ない強調なのですね。ですから程度副詞は積極的に削ってしまいましょう。一文は短いほど読みやすいです。
10.「重要である」「必要である」「意義がある」「前例がない」・・・そんなの分かってるよ!だから何?
・このような背景から、本分析法の改善は重要である。
・この合成法は医薬化学の発展に必要不可欠である。なぜなら・・・
・本機能をもつ材料は前例がなく、学術的にも意義深い。
こういった類のアピール文面には、実によくお目にかかります。「重要」「必要」「意義深い」「前例がない」は、提案の意義と優位性を示そうとする意図のもと、もっとも使いやすいフレーズたるようです。
しかし残念ながら、これだけで重要なことは何も言えません。申請書を書いた本人はこう書いたことで満足してしまいがちになる、「落とし穴フレーズ」だと筆者は考えています。
これは少し考えてみれば分かります。周りと比べて自分の提案の優位性・差別化要素を示せない限り、学振(=競争的資金)をゲットすることなど出来ません。しかしそもそも学振に申請書を書くような人たちは、全員が全員、「重要なこと」「必要なこと」「意義があること」を提示してくるのが当然でしょう。つまりこれだけでは、内容の差別化にほとんど貢献しないフレーズなのです。
また「前例がない」こと自体は、研究を成り立たせる最低要件でしかありません。「前例のない」ことを成し遂げた先にある価値こそが、説明すべき本質的なポイントだと思えます。
これらの表現だけで安直に解説を終わらせてしまっている文のほとんどは、「共同幻想」か「独りよがり」が論拠になっている場合が多いようです。つまり一読して考察・独自性・説得力に乏しい文面に見えてしまいます。有り体に言うなら掘り下げが足りていません。
こうならないためにも、客観的数値データや参考文献を適切に引きつつ、説得的に述べることが肝心です。重要性・必要性・意義を示したいのであれば、例えば以下の様に書き変えてみてはどうでしょうか。「重要」「必要」という単語を用いずとも、ちゃんと伝わることが分かると思います。
・この分析法を改善することは、XX%の研究者の作業時間をYY%短縮することに寄与する。
・この構造を含む医薬品は市販品全体のZZ%を占めるが、効率的合成法は僅か1例しか知られておらず、得られる化学構造も多様性に乏しい。
・前例がない本材料の開発によって、一連の~~~機能をもつ物質群の開拓が見込める。これらは既知最大効率WW%を凌駕する上限効率を持つことがXY法により試算されている。また学術的にも~~~という概念の確立をもたらし、これは将来的にはさらなる~~への道筋を拓く基盤となるものである。
11.誤解を生みにくい日本語を!
要するに誰が読んでも一つの意味にしか解釈できない文章へと徹底的に直そう、ということです。
多くの場合、徹底されていないのは以下の3点です。
①主語を明確にする
②被修飾語と修飾語を近づける
③長い修飾句は先、短い修飾語は後
そもそも日本語は主語を明確にすることを好まず、時には頻繁に省略する傾向にあります。しかし論理的文章でこれをやってしまうと、全く意味が伝わりづらい。一文ごとに主語を意識して書くように心がけるべきです。そうしないといつの間にか、受動態と能動態、目的語と被目的語がごっちゃになっていたりします。
②③も意味の誤解を生みにくくするための鉄則です。詳しくは「これ論」版 日本語の作文技術などを参照してみるのが良いと思います。
格好良くダブルミーニングにしたり、含みを持たせる作文姿勢はまず徒労に終わります。なぜなら読者(審査員)の手持ち時間が20分しかなく、咀嚼する暇がないからです。そもそも文体を楽しんで読むようなモノではありません。そういうことに頭を回そうとするぐらいなら、内容の向上に努めましょう。
まとめ
以上述べてきたように、論理的文章には厳然とした「書き方のコツ」が存在しています。パワーポイントを使った講演と同じで、基本的なところを押さえるだけで見違えるほど良くなるのも確か。つまり訓練が効くスキルであり、何回も書き直すうちに上手く書けるようになっていくものです。
申請書を上手に書く訓練を積むことは、プロへの階段を上がる第一歩です。指導を受けられる学生の間に、最大限訓練しておいて損はありません。プロの化学者たちは、こういった基本技術を身につけたその上で「内容勝負」をしているわけです。お忘れなく!
幸せな院生ライフが送れるよう、また将来の自分に役立つスキルを身につけられるよう、よい学振書類の作成を目指して頑張ってください!