トリアリールメタンと言えば、炭素原子ひとつのまわりに、ベンゼン環が3枚はたいているかのようなかたちをした分子の総称です。残りひとつの手で中心の炭素原子につく水素原子は外れやすく、トリアリールメタンがカルボカチオン・カルボアニオン・カルボラジカルのいずれにもなりやすいということは、大学で有機化学のかなり早い段階、いわゆる共鳴のお話でよく聞くところだと思います。
さて、このトリアリールメタンですが、画期的な新規合成法が報告[1]されたので紹介します。強みはC-H活性化で3枚目をつけることです。
よし、作り方を確認しよう、という前に、トリアリールメタンにはどのような分子が該当するのか、具体例を少しだけチェックしておきましょう。
最も簡単な構造のトリアリールメタンと言えば、トリフェニルメタン。こちらは四塩化炭素とベンゼンをフリーデル・クラフツ反応で化合させたのち、生成した塩化トリフェニルメチルを塩化水素で処理するというステップが、大規模スケールでの合成法らしいです。
これに加えて、トリアリールメタンと言えば何と言っても、みなさんおなじみ(?)のコレとかコレ。
酸アルカリ指示薬として懐かしのブロモチモールブルー(bromothymol blue; BTB)とフェノールフタレイン(phenolphthalein)です。小中学校の理科実験を思い出しますね。ちなみに本題とは関係ないのですが「めちゃくちゃ酸性にするとフェノールフタレインって赤橙色になるらしいですよ」と豆知識。
と、ここまで紹介してきた分子は、合成法も洗練されていて、ほとんどが安く作れます。しかし、トリアリールメタンすべてがすべてそうともいきません。ちょっと複雑なものを作ろうとすると、いろいろ準備が必要になってしまいます。たいへーん。
トリアリールメタンをC-H活性化で作る
もともと2010年に報告した類似の先行研究[2]では、重金属のクロムがかなりたくさん必要で、反応のスケールを実験室のレベルで不都合ないようにあげることは困難でした。
2012年の報告ではなんとクロムなしでもトリアリールメタンの合成に成功[1]魔法の触媒はないのかな。そこで、2012年までかけて、あれやこれやと探しあてた不可能を可能に変える組み合わせがこれ[1]。酢酸パラジウムPd(OAc)2に、カリウムビストリメチルシリルアミドKN(SiMe3)2と、さらに4,6-ビスジフェニルホスフィノフェノキサジン(nixantphos)の組み合わせです。この3つを論文に書いてある比率で加えて、反応条件を整えると、目的の反応が進むとのこと。クロムはいりません。報告されているデモンストレーションの場合、収率は71%から99%の間にありました。
塩基のビストリメチルシリルアミドは、カリウム塩でないと駄目なようで、リチウム塩やナトリウム塩などの場合は上手くいかなかったとか。
この論文、ちょっとだけ残念なところをあげるとすれば、ほどよく構造が複雑で、有用なトリアリールメタンが知られていないため、「こんなものも作れました!」というインパクトを持ちあわせていないところでしょうか。しかし、逆に言えば、トリアリールメタンのなかまに、まだ誰も試したことのない未知の機能分子が存在する可能性は、大きく残されているということです。例えば医薬品の場合、イミダゾール系の抗真菌薬であるクロトリマゾールくらいしか該当しないので、ケミカルライブラリーを拡充すれば、かわったものが取れるかもしれませんね。何か役に立つトリアリールメタンが合成されるようになれば、きっと素敵なことでしょう。
あなたはどんな機能を持たせたトリアリールメタンを作りたいですか?
参考論文
- “Palladium-Catalyzed C(sp3) − H Arylation of Diarylmethanes at Room Temperature: Synthesis of Triarylmethanes via Deprotonative-Cross-Coupling Processes.” Jiadi Zhang et al. J. Am. Chem. Soc. 2012 DOI: 10.1021/ja3047816
- “Synthesis of Polyarylated Methanes through Cross-Coupling of Tricarbonylchromium-Activated Benzyllithiums.” Genette?I. McGrew et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010 DOI: 10.1002/anie.201000957
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