[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ポリセオナミド :海綿由来の天然物の生合成

[スポンサーリンク]

海綿由来の天然物 ポリセオナミド polytheonamidesの生合成クラスターがJorn Pielらのグループにより同定され、Science Expressに発表されました。

 

Science Expressは、Science誌掲載予定論文の中から精選された論文のみを電子版で早期に発表するものです。つまり、Science掲載論文の中でも特に素晴らしい論文と言うことです。今回は、なぜこの論文がScience Expressに掲載されたかという理由について解説して行きたいと思います。

 

 

’’Metagenome Mining Reveals Polytheonamides as Posttranslationally Modified Ribosomal Peptides’’

Michael F. Freeman, Cristian Gurgui, Maximilian J. Helf, Brandon I. Morinaka, Agustinus R. Uria, Neil J. Oldham, Hans-Georg Sahl, Shigeki Matsunaga, Jörn Piel

Originally published in Science Express on September 13 2012

DOI: 10.1126/science.1226121

 

ポリセオナミド polytheonamides

 

ポリセオナミドは、分子量5,000を超える直鎖状巨大ポリペプチド化合物です。2004年に東京大学の伏谷•松永らのグループにより単離•構造決定されました。19種類、48残基のアミノ酸から構成され、そのうちの13種類は非タンパク構成アミノ酸です。

さて、みなさんはこの直鎖状ポリペプチドの構造式を見て、ポリセオナミドの三次元構造を想像できるでしょうか?

 

polytheonamide.gif

(図は論文より)

’’Polytheonamides A and B, Highly Cytotoxic, Linear Polypeptides with Unprecedented Structural Features, from the Marine Sponge, Theonella swinhoei’’

Hamada T, Matsunaga S, Yano G, Fusetani N.

J. Am. Chem. Soc., 2005, 127 (1),110–118

DOI: 10.1021/ja045749e

 ポリセオナミドの三次元構造は、2010年に同じく伏谷•松永らのグループにより報告されました。(下左図)ポリセオナミドは、β6,3-ヘリックス構造をとり、脂質二重膜中でイオンチャネルを形成します。(下右図)まさに、これは自然界が作った芸術と言っても良い構造でしょう!直鎖状ポリペプチドの構造式をみてイオンチャネルを形成しているなんて、一体何人の人が予想出来たでしょうか?

polytheonamide 3D structure2.gif

(図は論文より)

Solution Structure of Polytheonamide B, a Highly Cytotoxic Nonribosomal Polypeptide from Marine Sponge

Hamada T, Matsunaga S, Fujiwara M, Fujita K, Hirota H, Schmucki R, Guentert P, Fusetani N., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12941-12945.

DOI: 10.1021/ja104616z

 

ポリセオナミドは、人工のイオンチャネルを形成する点やD-アミノ酸を複数含む点など様々な面において注目を集めていました。

 

 

そんな、注目化合物の生合成が明らかになったのですが、なぜScienceなんでしょうか?

生合成研究なんて、ゲノム読んで、BLASTして、クラスター決めて、破壊株作るだけのルーティンワークでしょ?せいぜいNature Chemical Biology止まり、Nature、Scienceは無理でしょ?と思う方もいるかも知れません。

 

でも、Scienceに載るには理由があるのです!!!

 

 ①予想を覆した!

当初、ポリセオナミドは非リボソーム合成酵素(Nonribosomal peptide synthases; NRPS)によって生合成されていると考えられてきました。過去のポリセオナミド関連の論文も全てNRPS由来と書いています。

しかし、Jorn Pielらは、リボソーム由来のペプチドであると予想し、それを証明しました。これは、すごいことです。というのも、リボソーム由来のペプチドはL体のアミノ酸しか含まないと思われていたからです。ポリセオナミドの生合成では、epimeraseという酵素がL体をD体に変換するのですが、全てのアミノ酸の立体を変えるのではなく、特定の位置のアミノ酸の立体のみを反転させるのです!!!

 

②メタゲノムライブラリーの活用

最近の天然物化学で注目を集めているトピックスのひとつに「真の生産者は誰か?」というものがあります。植物や魚類などから単離されてきた化合物でも、実は共生微生物がその化合物を生産していたという例が報告されています。

 

今回のポリセオナミドは海綿由来。。。海綿は、英語でmarine spongeと言うことからも分かる通り大量の海水、微生物を含んでいます。もはやカオス。どの微生物が生産者かなんて分かりません。

 

従来は、環境中から取ってきた微生物を分離、培養してから研究していましたが、環境中の微生物は培養が難しいものがほとんどです。

 

そこで、分離、培養というステップを省いたメタゲノム解析が用いられました。どの微生物か分からないなら海綿に共生している微生物全てのDNAを取ってきて、そのまま解析すれば良いじゃん!みたいな発想です。簡単に聞こえるかもしれないですが、この海綿からのDNAの抽出はとても難しいステップなのです。

 

③バクテリア由来!

現在まで、海綿由来の天然物は共生微生物が生産しているのではないか?という仮説がありましたが、それを支持するようなものはありませんでした。

今回の論文においてJorn Pielらのグループは、ポリセオナミドが共生バクテリア由来であることが証明されました。この結果は、海綿由来の天然物が共生微生物由来ではないかと言う仮説を支持する初のものです。

 

 

今後について

エンジイン化合物であるC-1027Calicheamicinも2報続けて生合成研究がScienceに載ったことを考えると、海綿由来天然物の生合成研究もあと何報かはNature、Scienceに載るのではないでしょうか?

 

また今後、Pielらのグループからは、ポリセオナミドの生合成遺伝子のengineeringや、各酵素の機能解析で何報か続報が出てくるのではないでしょうか?

また、ポリセオナミドのクラスター内にあるL-アミノ酸をD-アミノ酸に変えるepimeraseの基質特異性について調べたり、t-Bu基をつくるメチル化酵素の反応機構について調べるのも面白そうです。

遺伝子クラスターは宝の山!ひとつクラスターを発見してしまうと数年は研究材料に困らないような感じがします。

 

最後に

海洋天然物は非常に注目を集め、強い生理活性を持つ化合物も多数報告されてきました。しかし、海洋天然物発の医薬品は、まだまだ少ないです。これを機に、海洋天然物の研究が更に加速して行くことを期待しています。

ざっくりした解説になってしまいましたが、詳しくは、論文を読んでください!

 

 

参考文献

’’Metagenome Mining Reveals Polytheonamides as Posttranslationally Modified Ribosomal Peptides’’

Michael F. Freeman, Cristian Gurgui, Maximilian J. Helf, Brandon I. Morinaka, Agustinus R. Uria, Neil J. Oldham, Hans-Georg Sahl, Shigeki Matsunaga, Jörn Piel

Originally published in Science Express on September 13 2012

DOI: 10.1126/science.1226121

 

’’Polytheonamides A and B, Highly Cytotoxic, Linear Polypeptides with Unprecedented Structural Features, from the Marine Sponge, Theonella swinhoei’’

Hamada T, Matsunaga S, Yano G, Fusetani N.

J. Am. Chem. Soc., 2005, 127 (1),110–118

DOI: 10.1021/ja045749e

 

Solution Structure of Polytheonamide B, a Highly Cytotoxic Nonribosomal Polypeptide from Marine Sponge

Hamada T, Matsunaga S, Fujiwara M, Fujita K, Hirota H, Schmucki R, Guentert P, Fusetani N.

J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12941-12945.

DOI: 10.1021/ja104616z

 

 

’’Total synthesis of the large non-ribosomal peptide polytheonamide B’’

Inoue, M.; Shinohara, N.; Tanabe, S.; Takahashi, T.; Okura, K.; Itoh, H.; Mizoguchi, Y.; Iida, M.; Lee, N.; Matsuoka, S. Nature Chem. 2010, 2, 280-285., DOI: 10.1038/NCHEM.554

Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. MEDCHEM NEWS 31-3号「ケムステ代表寄稿記事」
  2. 一次元の欠陥が整列した新しい有機−無機ハイブリッド化合物 -ペロ…
  3. 日本化学会と対談してきました
  4. カスケードDA反応による(+)-Pedrolideの全合成ダダダ…
  5. アメリカで Ph.D. を取る –エッセイを書くの巻– (前編)…
  6. ガラス器具の洗浄にも働き方改革を!
  7. リンだ!リンだ!ホスフィン触媒を用いたメチルアミノ化だ!
  8. 高分子討論会:ソーラーセイルIKAROS

注目情報

ピックアップ記事

  1. ルドルフ・クラウジウスのこと① エントロピー150周年を祝って
  2. 野依不斉水素移動反応 Noyori Asymmetric Transfer Hydrogenation
  3. ウォルター・コーン Walter Kohn
  4. カーン グリコシド化反応 Kahne Glycosidation
  5. はてブ週間ランキング第一位を獲得
  6. 藤沢晃治 「分かりやすい○○」の技術 シリーズ
  7. 世界的性能の質量分析器開発を開始
  8. ADC薬基礎編: 着想の歴史的背景と小分子薬・抗体薬との比較
  9. 塩にまつわるよもやま話
  10. LG化学がグローバルイノベーションコンテストを開催へ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー