年末大掃除の時に「お掃除に重曹を」、というのが流行っている、という噂を耳にしました。(季節外れですね。)
なんでも、市販の洗剤を使わなくても重曹で磨けば何でもぴかぴかになるとか、お酢やクエン酸もいいなど。
研究とは離れますが、炭酸水素ナトリウム、通称重曹は、小学校から大学まで、化学の教育とは切っても切り離せないものです。これが流行っているとなると、私のような化学者は興味をそそられるわけです。
そこで今回は、「重曹でお掃除」を説明してみます。年度末の引っ越しなどで、思い出して頂ければ幸いです。
研究者の方は常識と思うことも多いかも知れませんが、そんなときはにやにやして流して下さい。
ジュウソウの名前の意味
重曹とは、ズバリ「重炭酸曹達」の略です。といっても何のことやらさっぱりなかたも多いでしょう。逆に化学者ならばこれだけで「そうか!!」といろんなことを思うはずです(もしくは何をいまさら、と思うでしょう。ただ筆者がこれに気づいたのは、つい最近だったりします)。これがまたうんちくの宝庫なのです。「重炭酸」と「曹達」に分けて説明します。
重曹の「曹」
1,重曹の「曹」は「曹達」の略。
2,曹達とはソーダの当て字。そのまま「ソーダ」と読む。
3,ソーダはナトリウムのこと。
4,ナトリウムという元素(Na)は、ドイツ語ではNatrium(ナトリウム)。日本にはドイツから入ってきたので、ナトリウムと呼ぶ。
5,一方、ナトリウムは、英語ではSodium(ソディウム)という。今では世界的に英語が使われるので、Sodium (Na) みたいな表記がされる。
6,明治/大正時代にも工業の世界では、アメリカからの輸入言葉“ソーダ“もよく使われた。当時は「曹達」と字を当てた。
7,というわけで、歴史のある会社では今でも「曹達」を使う。「日本曹達」「鶴見曹達」など。
8,今は「ソーダ」といえば炭酸水だが、これは元々炭酸ナトリウムなどを水に溶かしてレモン水を加えたものだったから。
重曹の「重」
重曹の「重」は、ズバリ重炭酸イオンの「重」。
1,「炭酸イオン」は”CO32-“のことで、電子を二つ余分に持っている。
2,これにH+がくっついたもの”HCO3–“は、少し重いので「重」炭酸イオンと呼ぶ(のだと思います。これについては語源が見つかりませんでした)。ちなみに重炭酸イオンは、英語ではbicarbonate ionだが、bi-の意味は第二~くらいの意味らしい。この意味でのbi-として、重硫酸イオンはbisulfateなどがある。
3,重炭酸イオン、bicarbonateとも古い呼び名で、現代では、日本語では炭酸水素イオン、英語ではhydrogen carbonate ionと呼ばれる。
まとめると、現代の化学用語では、炭酸水素ナトリウムが正しいのですが、
これを古語に直すと、炭酸水素→重炭酸、ナトリウム→曹達、合わせて「重炭酸曹達」、略して重曹となるのです。
- 重曹を使ったお料理と中学生の化学の華、炭酸水素ナトリウムの熱分解
炭酸水素ナトリウムは、中学・高校の化学では良く出てきます。
中学理科における炭酸水素ナトリウムの熱分解、
高校化学におけるソルベー法は、どちらも裏側まで知っていると化学らしい話になります。
ここでは熱分解の話をしましょう。
2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
この分子式がすらすらと書けるようになれば、中学生でも上級者と言えるでしょう。
気体として出てくるCO2を水酸化カルシウム水溶液に通すと白く濁るとか、
水は試験管の端っこにたまり、塩化コバルト紙を赤くするとか(大学生の化学科の人たち、なぜ赤くなるか説明できますか?)、残った白い粉末が水に溶けてフェノールフタレインを赤くするとか、習ったはずです。
この「加熱すると二酸化炭素が出る」という性質は、お料理に利用されています。
例えば小麦粉と重曹と砂糖と牛乳、それに卵を混ぜて熱すると、小麦粉が固まるのと同時に二酸化炭素の泡が出てきて発泡し、ふわふわのホットケーキができます。
また最近では「コツのいらない天ぷら粉」などにも含まれています。
素人が天ぷらを揚げてもなかなかカラッと揚がらないものですが、
重曹を混ぜておくと衣が発泡し、細部までダマにならずに水分が飛び、カラッとなります。
ちなみに「天ぷら粉だと苦くなる」というのは、
2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
の反応で出た、炭酸ナトリウムが原因です。
重曹は極めて弱いアルカリ(pH = 8~8.5)ですが、加熱して出てくる炭酸ナトリウムはpH 11~12程度とまあまあ強く、これが苦みとして感じられるためです(アルカリは舌に苦みを与えます)。
本題に入る前にだいぶ長くなりましたので、次回に続きます。
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