[スポンサーリンク]

一般的な話題

私が思う化学史上最大の成果-1

[スポンサーリンク]

突然ですが、皆さんは化学史上、人類に「最大のインパクト」を与え、今なお与えている成果は何だと思われているでしょうか? 抗生物質の発見、DNAの構造特定、全合成の方法論、高分子の存在発見とその合成・・・候補は枚挙に暇が無いと思われますが、自分は敢えて『Haber-Bosch法の発見と量産化』を挙げます。

はじめまして、Tshozoと申します。化学に全く関係の無い会社に勤務しているというのに化学が大好き、尊敬するのは熱力学の大家Rudolf E. Clausiusという珍種です。どうぞ今後とも宜しくお願い申し上げます。

突然、冒頭でも述べましたが、皆さんは化学史上、人類に「最大のインパクト」を与えた、今なお与えている成果は何だと思われているでしょうか? 抗生物質の発見、DNAの構造特定、全合成の方法論、高分子の存在発見とその合成・・・候補は枚挙に暇が無いと思われますが、自分は敢えて『Haber-Bosch法の発見と量産化』を挙げます。

HB_edit

 Haber-Bosch法とは皆様よくご存知の通り、水素と空気中の窒素を結合させてアンモニアを合成する方法で、1913年ドイツBASF(Badische Anilin und Soda-Fabrik:英語表記 Baden Aniline and Soda Manufacturing)のLudwigshafen工場で初めて量産が開始されました。以後凄まじい勢いで合成量は増えていき、現在では全世界で生産容量1億9000万トン/年を見込むまでに増えています(2010年時点)。基礎化学品では硫酸に次いで第2位の量です。

Ammonia Production

近年のアンモニアの需要と生産許容量の推移
(KBR社資料より引用させて頂きました・こちら)

 では何故このアンモニアの合成が最も人類にインパクトを与えた・与えていると考えるのか?それはアンモニアが人間にとって最も重要な「食」を支えているためです(もちろん真水を得る技術も大事な発明ですが、これはまた別の機会にご紹介します)。アンモニアはその8割以上が肥料として消費され、それが世界の膨大な食料生産を支えています。実際アンモニアの増産と人口増加は相関関係があり、アンモニアが増産されなければ世界人口がもっと低かったということも考えられます。

 population_edit.jpg

長期の人口変遷と窒素肥料の消費量の関係
(左側縦軸は世界人口、右縦軸はアンモニア生産量ではなく工業的に固定された
窒素の量であることに注意・Prof. Smil資料を加筆引用させて頂きました・こちら)

 この偉大な合成法を発明したカールスルーエ工科大学のFritz Haberと、BASFのCarl Boschに関する書籍が、一昨年よりみすず書房から日本語版で発売されております。その名も「大気の錬金術」(原題:”The Alchemy of Air” そのままや、ですが・・・あくまで歴史物としてお読みください) 。作者のThomas Hagerは元々医学系のジャーナリストで米国国立癌研究所の広報担当なども勤めたことがあり、この他にもあの不世出の天才Linus Paulingの人生に関わる書籍も刊行しているようです。今回2回にわたり、この書の概要をご紹介いたします。

Hager_edit

  著者Thomas Hager殿 と 代表著作
(Pauling伝記の写真はこちらより、Hagerご本人の写真はこちらより引用致しました)

alchemy_edit.jpg

「大気の錬金術」”The Alchemy of Air”
(それぞれこちらこちらより引用致しました)

 本書はBoschとHaberの栄光の物語だけでなくその後戦争とともに訪れた二人にとっての闇の部分についても触れております。二人が戦争に加担した(又は、せざるを得なかった)ことで何が起きたのかについて詳細な記述があり、完成度の高いサイエンスノンフィクションとなっております。英語も非常に平易な表現で書かれておりますので、英語に堪能な方は是非原文もお読みください。

中身の詳細についてはまた2で・・・ (つづく)

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4622075369″ locale=”JP” title=”大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀”]

 

Avatar photo

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 湿度変化で発電する
  2. コーヒーブレイク
  3. パラトーシスを誘導する新規化合物トリプチセンーペプチドハイブリッ…
  4. 最近の金事情
  5. ルテニウム触媒を用いたcis選択的開環メタセシス重合
  6. ダニエル レオノリ Daniele Leonori
  7. 真理を追求する –2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨…
  8. 第99回日本化学会年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part…

注目情報

ピックアップ記事

  1. アレーン三兄弟をキラルな軸でつなぐ
  2. 【書籍】クロスカップリング反応 基礎と産業応用
  3. 不斉配位子
  4. クリストファー・ウエダ Christopher Uyeda
  5. 第一稀元素化学工業、燃料電池視野に新工場
  6. 二次元物質の科学 :グラフェンなどの分子シートが生み出す新世界
  7. 合成化学の”バイブル”を手に入れよう
  8. ケムステも出ます!サイエンスアゴラ2013
  9. SFTSのはなし ~マダニとその最新情報 後編~
  10. MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
272829  

注目情報

最新記事

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー