[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」①

[スポンサーリンク]

 

全合成(Total Synthesis) は、ときに山登りに例えられるほど過酷な研究領域です。多くは数年という長い時間を要し、幾人もの共同研究者による血の滲む努力と試行錯誤の末に、その合成は達成されます。

もちろん失敗を限りなく避けるべく、緻密な計画のもとに取り組まれるのですが、計画通りにいかないことも多々あるのが先端研究。全合成の達成目前、最後の最後で保護基が外れない!副反応をどうしても回避できない!・・・などといった事例は枚挙に暇がありません。しかしそれまで使った時間と労力は膨大なもの。少々の壁に直面したぐらいでは、既に後に引けなくなっているものです。

このように追い詰められた「極限状況」でこそ、人は頭脳をフル回転させ、優れたクリエイティビティを発揮して困難を打ち破る―そういった事例は多々知られています。そのような状況で編み出された解決法は、ありきたりな手法が全て返り討ちに会った末に生み出されたものです。ため息が出るほど素晴らしい発想だったり、別角度から新たな視点をもたらしてくれるような斬新な手法でもあります。

このコーナーでは筆者の独断と偏見に基づき、困難に直面した全合成のDead Endを回避すべく編み出された、優れた解決策を紹介してみたいと思います。筆者は将棋を指しませんが、全合成と将棋は似通う側面を多々持ち合わせていると感じます。そこでタイトルは「全合成・極限からの一手」としてみました。

今回は、Danishefskyらによる(+/-)-Myrocine Cの合成(1994)をご紹介します。

困難に直面した全合成化学者がいかにして創造的発想からの解決に至ったか、それを追体験できるようなクイズ形式にしています。皆さんも研究の息抜きに考えてみてください。解答は後日公開します。

 本合成においてはもともと、Aの脱離基Lを有機金属試薬へと交換し、共役系を介したエポキシド開環を駆動力とする分子内三員環形成にてCを合成する計画だった。しかしAtBuLiで処理すると、実際には化合物Bのみが得られることがわかった。
この予備的知見をもとに、試薬Xを二度加える手順が開発され、メシル化体ACの短工程変換が達成された。試薬Xの候補となり得るものを提案せよ。

next_move_2.gif

関連書籍

[amazonjs asin=”3527306447″ locale=”JP” title=”Dead Ends and Detours”][amazonjs asin=”B00DXJLDK6″ locale=”JP” title=”More Dead Ends and Detours: En Route to Successful Total Synthesis”]

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. グローブボックスあるある
  2. ヒドロアシル化界のドンによる巧妙なジアステレオ選択性制御
  3. 激レア!?アジドを含む医薬品 〜世界初の抗HIV薬を中心に〜
  4. タンパク質の定量法―ローリー法 Protein Quantifi…
  5. 半導体ナノ結晶に配位した芳香族系有機化合物が可視光線で可逆的に脱…
  6. 作った分子もペコペコだけど作ったヤツもペコペコした話 –お椀型分…
  7. ケムステイブニングミキサー 2024 報告
  8. Arcutine類の全合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. 東北地方太平洋沖地震に募金してみませんか。
  2. OMCOS19に参加しよう!
  3. 化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語
  4. 二光子吸収 two photon absorption
  5. 超原子価ヨウ素を触媒としたジフルオロ化反応
  6. 化学とウェブのフュージョン
  7. 武田オレフィン合成 Takeda Olefination
  8. シスプラチン しすぷらちん cisplatin
  9. 化学の楽しさに触れるセミナーが7月に開催
  10. アミンの新合成法

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー