というわけで、速報通り待望のカップリング反応が受賞したわけですが、ケムステだけでなく多用なメディアで既にノーベル化学賞候補として挙げられていました。この中でも鈴木章先生は恐らく2005年にGrubbsらがオレフィンメタセシスで受賞した前後より受賞は確実であろうと言われておりました。実はその際にこの分野は次点であったとも言われているくらいです。もちろんケムステでもかなりの時間をかけて多くの資料を用意してきました。この騒動が落ち着いた数日後にでもゆっくりと紹介していきたいと思っています。そういうわけで大学や報道機関もすでにかなりの用意はなされていたようで受賞後、Twtterや各種サイトで多くの話題がなされ、完全にお祭り騒ぎとなっていました。
ノーベル化学賞 in ケムステ
6:48 ごろ 根岸先生、鈴木先生日本人2人を含むノーベル化学賞の受賞が発表される。これは大変なことになると急いでサイトを確認するが今のところ変化なし。
7:00 すぎ 急激にアクセス数が伸び始める。Yahooや2ちゃんねるなどで受賞者の名前各種カップリング反応のリンクが貼られ始めたようだ。
8:00 すぎ 既にサイトが遅くなる。その時点で4万アクセス突破。通常は1万5千、多くても2~3万/dayゆえにサーバーが耐えられなくなったか?
9:00すぎ 数回に1回Service Temporarily Unavailavle(下図)がでて稼働しなくなる。10年サイトを運営してきて初めての経験。サーバー管理者からアクセスが集中しすぎてサーバーに問題がでるためアクセスを制限するとのご連絡が。
10:00過ぎ 速報や追加記事を書くにしても全く編集できず。
0:00 ようやくサーバーが安定して執筆開始。およそ5時間で9万以上のアクセス。恐ろしや。
新聞社での発表をみて何かおかしいと見て、調べたら根岸英一先生の漢字を誤表記していることに気づく。 実は根岸英一先生のリンクがGoogle先生でマトモに表示されたのはこのサイトのコンテンツである世界の化学者データベースのみで、漢字を誤表記しており根岸”栄一”と記載していました。その後、各社一斉に訂正。
スウェーデン王立科学アカデミーが発表したノーベル化学賞受賞者の日本語の記者発表資料で、米パデュー大の根岸英一・特別教授の名前が「根岸栄一」と誤って記載されていた。 NHKの午後7時のニュースでも一時誤った漢字で流れるなど混乱が生じた。資料は英語、スウェーデン語、日本語で発表された(引用:読売新聞)。
まさか記者発表資料も参考にしていた?まさかね…。大変申し訳ございませんでした。
ノーベル化学賞 in ツイッター
比較的に馴染み深い有機反応であり尚且つ日本人受賞だからなのかツイッターも大盛況。昨年はガチ化学の型からは拍子抜けしたノーベル化学賞であったのでいろいろな意見が飛び交いました。一部紹介したいと思います。
@e_mani
ただ正直,これでカーボンナノチューブの受賞の可能性が無くなったと思うと一抹の寂しさを感じます
まだまだ0ではありませんよ。そう願いたいです。
@Hiro1030M 親戚がノーベル賞とりました\(^o^)/
まじで!マジっぽいっす。
@t_hase_
結局、ノーベル財団から電話はかかってきませんでしたwwwwwwww
残念!
@makoto_B
そういえば自分のアイコンが鈴木カップリングに必須のホウ素だということを早いうちに主張しておかねば(笑)
確かに。
@kei_chandler
ノーベル化学賞、日本人2人かと思ったら、続報でヘック反応のヘック先生も受賞されてるではないか。いつものことだが、日本人のことだけ伝えるのはマスコミの視野の狭さが表れてるなあ
同感です。速報以外はヘックの名前も全く出てきませんでした。飛行機は落ちましたが日本人はいませんでしたよかったですね。と類似です。
@Janus_Rotaxane
クロスカップリングならJK Kochiも忘れたくないです。確か生まれは日本じゃないはずですが。数年前にお亡くなりになったのが悔やまれます
本当にそうですね。後々紹介します。
@borylene
ノーベル化学賞のコメンテーターとして柴崎先生がNHKで電話インタビュー受け取るwそしてNHKの解説に対して訂正までしとるww
すごい!福山先生も出演していました。
@raji_gudou1997
問題は近年のノーベル賞ラッシュは過去の業績であり、未来の受賞者になる若手研究者が育ってないというか、食っていけないと言うことです。博士号は取ったけどというポスドクがジプシーというかルンペンになるというか。まあ何というか、国が研究費と生活をなんとかしろと。地盤は沈下中だよ。
間違いないことです。これを元に国や国民がサイエンスにもう少し目覚めてくれればこのような過剰な報道も相当に意味があることとなります。
@drug_discovery
「誰もやってない仕事をしなさい」という言葉は、たぶんこれまでに数えきれないほど聞いた言葉なのだろうけど、節目節目にきちんと言ってくれる研究者がいるのはありがたい。
同感です。
@kei_chandler
以前に化学賞を受賞した野依良治氏は自分の発見した触媒で特許を取り、一企業(高砂香料)にだけ利益を与え、今でも社外取締役である。鈴木章先生は特許を取らず、皆が鈴木先生の反応を利用した。「特許を取っていればなあ」と冗談を言っておられたらしいが、そしたらここまで反応は広まらなかった。
よく聞く話ですね。これを話すと知財部によく怒られます(苦笑)
@chemstation
サイトがオーバーアクセスで記事が更新できない(泣)。
大変無念でした。
@Tadashi_I
鈴木先生の研究はこんな小さな科研費
から始まったのかって思うと胸が熱くなるな 【有機硼素化合物を用いる新有機合成反応に関する研究、鈴木 章】 http://bit.ly/bn94vr
すばらしい。本当に良い研究はお金だけではないのかもしれませんね。
@anus_Rotaxane
残念です。ご存命でしたら、日本人ハットトリックだったかと。ご存命でしたらノーベル賞をとっていただろう人に光延先生も。ノーベル賞とるには長生きも秘訣ですよね。
溝呂木先生のお話です。
@BeautifulLife
素晴らしい!でも、日本の報道の中継が見れなくて無念(><)皆さんのツイートに期待
皆さんのツイートが中継を見れない人の助けになってるいるのではないでしょうか。
@cavalry_hy
@ama98 時たまに人名に限らず物でもカップリングは成立することがあります。人名の場合、性別の同じ人どおしがカップリングされることを特にホモカップリングといいます (違
ホモカップリングを研究している人はかならずいわれるネタ。
@fluorine18
クロスカップリング反応は広く応用されて、研究されつくしたかのように見えるけど、まだまだ改良の余地が残っていると思う。
同感です。まだまだやることは山ほどあります。
@kumanosuke
鈴木カップリングを使うと六角形のメガネが作れる。よし覚えた。
こういうものです。もっと科学をうまく伝えられたらと思います。
@Cai0407 Cai
有機屋のみならず物理化学屋さんも真っ青 QT @oku: 古舘カップリングとは、テレビ朝日の報道番組「報道ステーション」内で進行役の古舘伊知郎が発見したカップリング反応のひとつ。σ結合間で結合する夢のカップリング反応で、実現すればノーベル化学賞は確実であるといわれている。
もっとも流行っていたネタ。後述します。
@KentaroSato ブログのアクセスがえらいことになっている。帰って更新するヒマあるかな……。
お疲れ様でした!同感です。
@yum_labo
化学って難しいよね!一般人が書いた「間違い」も「あり得る」わけだからね.炭素の手が多い間違いも,今は6配位や5配位の炭素化合物も合成されているし.
だから化学は面白いですよね。そう思います。
とホンの一部ですが紹介してみました。主に化学クラスタの方ばかりですが、ノーベル化学賞のツイートが数万件にのぼっているところをみると、強ちみな興味をもっているのかもしれません。他のツイートはこちらをどうぞ。ノーベル賞関連ツイート
ノーベル化学賞 in 出身◯◯
北海道大学
新着情報|2010年ノーベル化学賞受賞・鈴木章名誉教授の業績について
なんといっても鈴木先生の務めていた北海道大学の速報の量、質ともに光りました。鈴木先生へのインタビュー、鈴木カップリングの映像や、共同研究者であった宮浦憲夫先生の声などここだけで詳しい化学的な歴史以外の発見の歴史がまるわかりです。
東京大学
根岸英一先生ノーベル化学賞受賞について
ええ!これだけ?出身大学なのに。速報も既に各メディアがある程度報道を行ったあとでした。ちょっと悲しいです。もうちょっと考えたほうが良いと思います。
パデュー大学
American, two Japanese share Nobel for chemical tool
おお!しっかり根岸先生のインタビューがある!…と思ったら大学のニュースリンクからロイター通信に飛んでいました。
デラウェア大学
UD professor emeritus wins Nobel Prize in Chemistry
ヘック先生のことがしっかり記事が記載されていました。
大学はしっかりプレスリリースしたほうがよいと思いますよ。でないとしっかりとした報道になりません。特に日本はそんなに無いですし、候補者はある程度わかっているのですから。
ノーベル化学賞 in 新聞&TV
上記にも記載しましたが、特に鈴木先生に関してはかなり前から予想はされていたため経歴等も良く調べられていました。根岸先生に関しては徐々に、ヘック先生に関しては速報以後名前が消え、最終的には日本人2人が取ったようでした。この件に関しては常に残念に思います。もちろん日本人を応援する気持ちは筆者にも大いにありますが、和らげていうと同時受賞の場合ぐらいもう少し報道してあげてもよいかもしれません。
Twitterでも記載しましたが、解説者として、柴崎正勝先生や福山透先生がTVに出演されていました。いつもみている先生方がTVに現われると不思議な感じで(といっても実はほとんど見れませんでしたが)、するどいツッコミ、解説をされていました。
なんといってもTV報道で話題となっているのは報道ステーションでの古舘伊知郎さんのクロスカップリング。ベンゼン環とベンゼン環がカップリングしている図を描きたかったっぽいのですが、どう見てもシクロヘキサンにの間から結合が出ています。位置異性体がある?さらに生成物らしきものはどうみてもデカリンにしか見えません。その前のCGを用いた図もなぜかベンゼン環とベンゼン環に魔法のパラジウムをふりかけたら炭素の手が5本のスピロ構造のベンゼン縮環体ができていました。鈴木先生に「それをつくったらノーベル賞とれます」と言わせた構造。誰か反応開発してみませんか(苦笑)。
とはいいつつも、報道はしっかりしなければいけないと思う反面、報道のプロをもってしてもそんなものだということに驚いた反面、納得してしまった感があります。本当に科学を理解する、簡単に説明するのは難しいことです。ただこれから確実に説明責任が化学者にもついてまわり、さらにその中間となるサイエンスコミュニケーターが活躍できることを意味しているのではないかと感じたTVでした。
その反面新聞では、なかなかよい記事も見られ、毎日新聞のこの記事
ノーベル化学賞:お家芸カップリング 日本の層厚く
はかなり今回のノーベル化学賞の背景にいる、残念ながら対象とされなかった方々や有機合成化学という分野をうまく説明しているのではないかと思いました。
ノーベル化学賞 in リアル
研究室で皆で声を上げて有機合成化学の受賞を喜びました。その後、記者が流れこんできてそのまま取材になっていました。とはいっても当方名古屋なのでイマイチ盛り上がりにかける様子で、対象となった2008年ノーベル化学賞の際とは異なりました。対象の大学ではものすごいことになっていたと思います。筆者はというと、いくつか質問に答えた後、さっそうと戻りこの先どうしようか考えていました。メールにていくつかインタビューのお誘いのメールが来ていましたが、夜中までいろいろ取り込んでいたので全く気づきませんでした。
スミマセン。
お祭り上等!盛り上がれ!
いろんな意見があると思いますが、偏った知識や見識で報道する、過度の盛り上がりなど問題はあるのかもしれませんが、筆者としては化学者も誰でも皆協力して盛り上げていけばいいと思います。こういう機会がなければ科学者と一般の方々が向き合い、話し合う機会というのはなかなかありません。それは今後の科学に対する思考の方向性を示しています。
私は、私たちは誰にでも自分の研究の楽しさを説明できる化学者になりたいですし、化学の面白さを伝えたいと思っています。だからこのサイトを運営しています。
というわけで、お祭り編と称して受賞後の光景を記事にしてみました。次回はもう少し化学的な内容およびパラジウム触媒とカップリング反応の背景に潜むドラマについてお話してみたいと思います。