本シリーズでは有機化学を学び始めた人向けに、反応機構図・電子の矢印を書くためのポイントを解説していきます。
反応機構がうまく書けない、とお困りの方は是非参考にしてみてください。
前回の記事はこちらです。
反応機構図を書くプロセスを分解してみよう
まずは簡単な例で見てみましょう。「シクロヘキセンへの臭化水素酸の付加反応」をとりあげます。この反応はどのような機構で起こっているのでしょうか?電子の矢印で反応機構を書くプロセスを、できるだけ詳細に解説してみます。
STEP 0.
まず考えるべきは、どれとどれが反応するのか?ということです。臭素も負電荷を持つ求核種となりえますが、唯一の求電子種である水素とは既に結合しています。ですので、意味のある反応を開始させるには、オレフィンと水素が最初に反応する必要があります。
STEP 1.
「オレフィンから電子対を水素に与える」という意味を示す巻矢印を書きます。
水素のもつ電子はすでに2電子あるため、オクテット則を満たすにはこれと同時に2電子分が別の場所に移動しなくてはなりません。この場合は、より電気陰性度の高い臭素原子に電子が流れ込むことになります。そのような電子の流れを示す、曲がった矢印も書きます。
直線矢印を挟んで右側には、反応後に生じる化学種を書きます。帯電の仕方・形式電荷に注意します。中性分子同士が反応しているので、トータルで見れば電気的に中性でなくてはなりません。
STEP 2.
STEP 0.と同じように、引き続きどれとどれが反応するのか、を考えます。このとき反応系には、新しくできたカチオン種・アニオン種と、既に存在している中性化学種があります。通常はもっとも反応性が高いもの同士が反応します。この場合は、カルボカチオンとブロモアニオンです。
STEP 3.
ブロモアニオン(求核種)から、カルボカチオン(求電子種)へと電子が流れ込む矢印を書きます。これで求める生成物ができました。より正確には、立体化学も考慮に入れた構造式を書く必要があります。ただ、立体化学は別に考えた方が分かりやすいので、今回はとりあえず横に置いておきます。
全部まとめるとこうなります。
いかがでしたか?どんな複雑な反応機構も、基本はこういう考え方を繰り返すことで書けます。
もう少し複雑な例については、また別の機会にご紹介しましょう。
(※本記事は以前より公開されていたものを加筆修正し、「つぶやき」に移行したものです。)
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