[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

C-H酸化反応の開発

[スポンサーリンク]

2ヶ月ほど前、イリノイ大学化学科のM. Christina White助教授の講演を聴く機会がありました(実ははじめは「先日」であったのですが、多忙ゆえ「2ヶ月」になってしまいました)。以前、複雑化合物合成にも適用可能なC-H酸化反応アミンの新合成法2として彼女の研究を紹介しました(写真:イリノイ大学化学科HP)。
話それますが、写真はイリノイ大学の化学科から拝借したものですが、全教員の全身写真が掲載されている非常にスタイリッシュなホームページです。きつい、きたない化学のイメージを一新し、化学に興味をもってもらうためには大学や研究者自体このような努力が必要なのかもしれません。もちろん同じように日本の大学の教授を掲載しても、同じようなきれいなホームページになるとは限りませんが。

彼女はJohns Hopkins UniversityでPh.D取得後、ハーバード大学のJacobsenのところで博士研究員を経験し、2002年にポストを取得しましたが、テニュアをとることができず2005年にイリノイ大学の化学科の助教授になり今にいたるという、見た目よりも苦労人なのです。今回の結果で、今年には准教授へ昇進することは間違いないと思われます。

 

さて、今回の講演は前回紹介した記事の内容とプラスアルファの内容でした。つまり、複雑化合物合成にも適用可能なC-H酸化反応と、分子内酸化的C-Hアミノ化反応に加え、それを発展させた分子間C-Hアミノ化反応(下式)を発表していました。
c-hamination.gif
分子内C-Hアミノ化反応の際に用いたbis-sulfoxide/Pd(OAc)2錯体を分子間反応に適用しましたが、反応は進行しませんでした。種々検討の結果、Cr(III)サレン錯体を共存させることによって反応が円滑に進行することを見出しました。Crサレン錯体はπアリルパラジウム錯体の形成を促進させると考えています。
この反応を様々な基質に適用したところ、以外にもかなりの基質一般性があるようでした。また以下のような不斉炭素を有する化合物においても、光学純度を損なうことなく、中程度の収率ではありますが、位置選択的にアミノ化が進行することがわかっています。
c-hamination2.gif
また、実際にどの程度有用かということを、(+)-deoxynegamycinという化合物を合成し示しています。従来のC-O結合からC-N結合へ変換するルートを経ると、11段階かかってしまいます。しかし、C-H結合を直接C-N結合へと変換するこのC-Hアミノ化反応を用いるとおよそ半分の6段階でさらに収率良く(+)-deoxynegamycinを合成できることを示しました。もちろん、窒素の保護基の除去条件がかなり過酷である、収率がいまいちなど文句をいえばきりがなく、まだまだ改良の余地はありますが、C-H活性化反応の可能性を感じさせるような結果でした。

 

c-hamination3.gif

講演の感想としては、とても勢いを感じて迫力がありますが、女性に多い(こう いったら差別になってしまうかもしれませんが)、完璧に内容を暗記し、ガーっと強弱なしに話すというもので、若干インパクトにかけましたが(本人はかなりインパクトがあり一度見たら忘れられないような感じでした。)、内容はとても面白いものでした。このような米国の若手がいままでの合成化学を根本的にかえていくのかもしれません。元はといえばC-H活性化反応は日本のケミストリーであるわけですから、日本の若手もがんばりたいものですね。

関連試薬mfcd09842752.gif

Aldrich

White catalyst: 1,2-Bis(phenylsulfinyl)ethane palladium(II) acetate

分子量: 502.90

CAS:

製品コード: 684821

値段: 250mg 5800 (2008.10.30現在)

用途:触媒

説明: ビススルホキシド-Pd(II)触媒(White 触媒)は、分子間または分子内のアリルC-H酸化反応、アリルC-H酸化反応/ビニルC-Hアリール化の連続反応、さらに最近ではアリルC-Hアミノ化反応などに有効である。

文献: (1) Fraunhoffer, K. J.; White, M. C. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 7274. (2) Fraunhoffer, K. J. et al. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 9032. (3) Delcamp, J. H.; White, M. C. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 15076. (4) Chen, M. S. et al. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 6970.

その他のWhite 触媒に関する記述: White触媒:アリルC-H酸化反応/アミノ化反応の触媒(Aldrich製品紹介)

 

関連論文

・Reed, S. A.; White, M. C. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 3316-3318.  DOI: 10.1021/ja710206u

Fraunhoffer, K. J.; White, M. C, J. Am. Chem. Soc, 2007,129, 7274-7276.  DOI: 10.1021/ja071905g 

 

関連リンク

M. Christina White

 

関連書籍

[amazonjs asin=”3642123554″ locale=”JP” title=”C-H Activation (Topics in Current Chemistry)”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 新たな環状スズ化合物の合成とダブルカップリングへの応用
  2. 複雑にインターロックした自己集合体の形成機構の解明
  3. 「リチウムイオン電池用3D炭素電極の開発」–Caltech・Gr…
  4. 第97回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Pa…
  5. ホウ酸団子のはなし
  6. 膨潤が引き起こす架橋高分子のメカノクロミズム
  7. 【2021年卒業予定 修士1年生対象】企業での研究開発を知る講座…
  8. 分子集合体がつくるポリ[n]カテナン

注目情報

ピックアップ記事

  1. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑨
  2. エステルからエーテルをつくる脱一酸化炭素金属触媒
  3. comparing with (to)の使い方
  4. ジョン・フレシェ Jean M. J. Frechet
  5. やまと根岸通り
  6. トロスト不斉アリル位アルキル化反応 Trost Asymmetric Allylic Alkylation
  7. ダイハツなど、福島第一原発廃炉に向けハニカム型水素安全触媒を開発 自動車用を応用
  8. 化学産業における規格の意義
  9. 基礎講座 有機化学
  10. Carl Boschの人生 その8

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年4月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP